中国杯FS

結果はこちら
男子

 点数の伸びづらいシステムに変更となっていきなり、ベストを更新しての優勝、おめでとう。冒頭の振りを自分のものにできていて、新境地を見た気がしました。4Tで手をついた以外はミスのない演技。とはいえ、ジャンプの軸・着氷でいくつかひやりとする場面があり、また、セカンド3Tがない等、まだまだ技術点の伸びる余地は残されています。

 サルコウジャンプの高さにしびれました。SPでスピンのレベルを取れていそうと書きましたが、実際は1と2。SPの足換えコンボは、レベル上げの特徴ばかり見ていて、必須要件を失念していました。最後のアップライトの姿勢で2回転できていないという判定だと思います(*1)。フライングアップライトスピンはSP・FS共にレベル1。キャッチフットのポジションが変形ではないとスペシャリストから判断されたということで、この判定が今後も続くとなると別の変形またはキャメルが必要になってきます。フリーでもレベルが取れなかったこともあり、スピンに消費する時間が増えることが予想され、プログラム内容を少しずつ変更し、その時間を作るという作業が待っているかもしれません。ジュベール選手にとって、課題の多く見つかった大会となったように思います。
*1 テクニカルパネルハンドブック日本語訳より
 ショート・プログラム、フリー・スケーティングとも、レベル2-4 には次の要件が必須である
a) 足換えありのスピン・コンビネーションでは、全ての基本姿勢を含むこと
女子

 SPの3−3<のGOEが−1平均(0.7点前後の減点)にとどまることを確認できたのは収穫で、今後挑戦しやすくなったのではないかと思います。フリーを観ての全体的な印象はSP同様、慎重に演じていて思い切りが無く、スピード感にかけているというものでした。後半の2A−3Tはセカンドをダブルにしたのは正解で、トリプルであれば大きなミスをしていたように思います。
 初戦で優勝し、ファイナルに大きく前進したことは素直にうれしいのですが、昨季・今季とあまり思い切りのよい演技が見られていないように感じています。結果を恐れず、グイグイ加速して目の覚めるようなジャンプを跳んで欲しいというのが、素直な気持ちです。

 連覇はならなかったものの確実にポイントをゲットし、ファイナルに向け一歩前進。後半、フリップが抜けてしまい、その失敗を引きずってしまったのは残念。その部分以外は失敗を全く感じさせない演技でした。伸び悩んでいた演技構成点ではトップの評価を獲得。

中国杯SP

結果はこちら 男子 女子
男子

 演技中の照れのようなもの・全体的に視線が下を向いているといったこれまで感じていた物足りなさが少しずつ改善されているように思います。演技構成点でもしっかりと評価されていますが、これについては毎季一喜一憂を繰り返しているのでこれからの出方を待つことにします。今季からスピンにおいて、変形・チェンジエッジに大きな制限が設けられてレベル獲得が難しくなり、多くの男子選手が対策に苦慮していることが伺えます。速度を保ったままでの8回転・スムーズに足換え後のキャメル姿勢をとることができる等、小塚選手の持つしっかりとした基礎の技術点におけるアドバンテージが相対的に大きくなったように思います。

 トリプルアクセルでステップアウト、ここで約3点を失いましたが、回転自体には全く問題がないように見えます。コンボジャンプは4−3で、ジャンプ全体の基礎点は小塚選手よりも5点上。スピンもどれもレベル3は取れているように思うのですが、技術点で大きく逆転されています。ひょっとして4TがURされたのかもしれません。

 ルッツジャンプの美しさにハッとしました。コンビネーションジャンプもきれいでしたが、恐らくエラーがついていると思います。スピン対策は途上か。
女子

 見せ場のひとつ、スパイラルが無くなってしまいましたが、それでも巧みな手足の動き・世界屈指のスピンで魅了してくれました。ルッツ・フリップのエッジは変わらずフラットに近いように見えます。

 フライングキャメルスピン、ピタッと軸がとれてスピードを保持、素晴らしいと思います。ルッツでのステップアウトは残念でした。ステップからのフィニッシュがここまではまるのも鈴木選手ならでは。このプログラム、好きです。こういった曲調は彼女にあっていると思います。

 3−3のセカンドループはルッツを降りた後にしっかりとタメを作る安藤選手本来(と私が思っている)の踏み切りで「おっ、いける!」と血圧が上がったのですが高さが出せずに不足判定。回転不足という報道・本人のコメントがありましたが、DGだったのでしょうか?十分URの範囲内のように見えるのですが。フリップの入りをチェンジエッジとスリーの一連のステップからに変更し、SPの要求事項を確実に満たすようになったと思います。2Aでオーバーターン、にしても技術点が低いように思います。スピン・ステップでレベルを逃しているのでしょうか。それともやはり3Lz−3Lo<<?全体としては、いかにもシーズン初戦で滑り込みが足りないという印象。ステップは今回の内容ですとスペシャリストによっては、レベル1となる危険も含んでいるように思います。

NHK杯(女子SP)

五輪シーズンが終わったなあとしみじみしていたら、本格的なシーズンイン!ついに四十路に突入したせいか、この半年強は本当にあっという間でした。今季、GPS初戦はNHK杯です。
結果はこちら

 フリップからのコンビネーションジャンプ、そしてスパイラルシークエンスが入っていないからか、昨季ほどのスピードは感じられませんでした。コストナー選手というとスピンが弱いという印象があったのですが、速度の速いキャメルの基本姿勢他、とても楽しむことが出来ました。3T−2T・3Loと構成を大きく下げていることから、ジャンプの調子はこれから徐々に上げてゆく段階かも知れません。フリーでは何とかまとめて欲しいです。

 シニアデビューシーズンを強調したはつらつとしたプログラムは、村上選手の持ち味を引き出していると思います。小気味良い動きやスピード感、何よりもあの表情がはじめから出来るのは驚き。3−3セカンドの回転は、スローで見て余裕で足りていると思ったので、不足(UR)との解説があったときはびっくりしたのですが、ファーストジャンプで取られたものと放送されていました。ファーストで取られたにしてもぎりぎりのように感じられ、かなり厳しい基準だと思いました。フリーでは、フリップからの3−3と課題のループジャンプが組み込まれる予定のようです。基準が厳しいので認定されるかはともかく、なんとか片足で降りてもらいたいです。

 これまでフラット選手のフリップは、ターン後にイン→アウト→インと大きく蛇行しながらの踏み切りでしたが、ターン直後(ターン後のインサイドを保ったまま)の踏み切りに挑戦しているようです。かなり良い出来にまで仕上がっているように思います。昨季のルッツに続き、本当に器用な選手だと思います。得点面からみた爆発力はないのですが、ジャンプの安定性は素晴らしいものがあります。フリーが楽しみです。

 彼女の雰囲気、かなり好きです。シットスピンの回転速度にはただただ感動。ジャンプにも工夫が見られ、もう少し技術点が伸びても良いように思うのですが・・・ルッツのエッジやダブルアクセルの着氷で少しずつ点を失っているのかも。

 トリプルアクセルの解禁が裏目に出てしまった形。恐らくダウングレード、そして今季から転倒と同じ扱い(−3 −GOE)となったツーフット着氷で、ダブルアクセルの転倒と同じTESしか獲得できないという結果に。ジャンプのミスが続いてしまいましたが、全体の見直しをしている最中ということですので、いきなりパーフェクトに降りるというのも酷な話です。プログラムの印象としては、少し浅田選手にはあっていないように感じました。コンビネーションスピンのあたりから曲調が一段激しくなるのですが、優雅でゆったりとした身のこなしが染み付いているというのか、メリハリを出すのは少し苦手なような気がします。五輪チャンピオンのペトレンコ氏がプロになってからノリの良い曲で演じた時にも似たような印象を受けたものです。ディダクションはタイムオーバーでしょうか。測ったところ1秒長いような気が・・・そうだとすればもったいないミス。フリーは「愛の夢」。ジャパン・オープンでは曲に遅れてしまったのですが、浅田選手の持ち味を最大限に引き出すプログラムだと思います。

  • フリップの矯正が流行?

フラット選手の項で述べましたが、フリップの矯正は他にも浅田選手・ジャン選手が取り組んでいます。ジャン選手は蛇行だけでなくハイキックの矯正にも着手。練習では不安があったとのこのですが本番は見事成功。節目の五輪が終わり、リスクを承知の上でより質の高いジャンプの習得を目指しているということだと思います。フリップジャンプの語源は英語の“Flip:ひっくり返す。反転する”にあると思うのですが、ターンと一体となっている(=ターンした後のインサイドのカーブを維持したまま踏み切る)ジャンプという解釈も可能だと思います。実際にそのように踏み切っている女子選手はそれほど多くはないのですが、この矯正の流れがNHK杯限定のものなのか、それとも多くの選手が取り組んでいるものなのか、これからも注目していきます。

足換えスピン

 ジャパン・オープン、華麗に見逃しました。Youtubeの映像しか見ていないものですから日記にするつもりはなかったのですが、恒例となりつつある(おっちょこちょい&中途半端な英語力なものでごめんなさい。できるだけ減らすように努力します)勘違いに気づいたもので、とりあえずその訂正をしなければと・・・日記にしたものの内容については、ほとんど頭に入っていますので、得意の勘違いが炸裂していた場合には都度訂正し、できれば今年中にまとめのようなものを作りたいなと思っています。

  • 足換えスピン

 5月16日の日記で、足換えスピンのレベル2以上の追加要件として、“左右両足で少なくとも1種類の基本姿勢を取らなくてはならない” (原文:“for Spins with change of foot at least one basic position on each foot.”)の解釈を“基本3姿勢(アップライト・キャメル・シット)の少なくとも一つは左右両足で行わなければならない”とし、例として昨季安藤選手のコンボスピンを挙げたのですが、その安藤選手、ジャパンオープンで昨季と同様、左足:キャメル・シット、右足:アップライトの構成でばっちりレベル4を獲得しておりました。あわてて日本語訳を見たところ『左右の足とも少なくとも1 つの基本姿勢を含むこと』と似たような表現になっている一方で、
ショート・プログラム:一方の足では基本姿勢で2 回転行なわれたが、他方の足では基本姿勢で2 回転に満たない場合、そのスピンにはレベルは無く、したがって無価値となる。フリー・スケーティング:足換えありの単一姿勢のスピンが一方の足で全く基本姿勢がない場合、他方の足のレベルの特徴は適用される。しかしながら、レベルは1 より高くならない。』
 との記述が別にあり、これは“どちらかの足が中間姿勢のみで構成された”場合を想定しているのではないかと思われます。
中間姿勢とは、この日本語訳で基本3姿勢に該当しないものと説明されています。はじめから中間姿勢を構成に入れるということは稀で、多くの場合、シットを試みたものの、スケーティングレッグの上部(太もも)が氷面よりも平行以上の(=お尻の高い)姿勢(例:写真IP中*1)と認定されたり、アップライトを試みたものの、スケーティングレッグが十分に伸びていないとみなされたり(例:同右)といったものがほとんどでしょう。厳密にいうと違うのですが、スケーティングレッグの膝の角度が概ね90度を超え、160度に満たないものが該当するといえると思います。昨季の演技を思い返すと特にシットの例示姿勢ではシットとしての要件を満たしているものの方が少ないようです。公式に写真が示された姿勢については特に、厳しい判定が下されるかもしれません。
フィンランディア杯で優勝したガチンスキー選手、ショートプログラムの足換えシットスピンが無効となっています。そして、フリーでは、足換えシットではなく、基礎点の低い足換え無しのシットスピンという構成で演じています。ショートの映像がないので確かなことはいえないのですが、これはショートのCSSpが無効とされた理由がこの罰則による中間姿勢という認定で、同じ罰則を受けてフリーでCSSP1という判定を避けるためのものではないかとも思います。フリーの映像(2:45〜)を見ますとバックエントランス・8回転・変形(ひねり)でMAXレベル3の構成です。昨季の彼は左足で写真で例示された変形のポジションをとっていました。今季はバックエントランス・変形1(ひねり)・変形2(例示姿勢)・変形2で8回転のレベル4を元々は予定していた(そしてそれをショートで行った結果、左足の変形が「中間姿勢」とみなされ無効となった)のではないかと想像しています。
*1
このポジション、私は「キャノンボール」という名称の変形だと思っていたのですが、「パンケーキ」と説明されているサイトも見受けられます。確かに、こちらの映像(2:25〜)では「パンケーキ」と解説されています。(ルシンダ・ルー選手のスピン、ほれぼれします。基本姿勢でよく回っていると思います。解説の方(ディック・バトン氏?)もおっしゃっていますが、レイバックでの回転速度の維持は感動ものです)

ISUルール変更(明確化)

テクニカルパネル・ハンドブック2010/2011 
(8/19追加)テクニカルパネルハンドブック2010/2011 日本語訳
ステップの『回転方向の素早い転換』において先日の日記で大変な勘違いをしてしまったので、まずはそのお詫びと訂正を兼ねて真っ先に・・・とはいうものの今回も、訳に自信がない・・・というわけで原文も貼ります・・・間違いがありましたら、ご指摘いただけますとありがたいです。

  • ステップシークエンス

レベル要件の追加項目ですが、
難しいターンのコンビネーション
前の日記で要件を満たすのが易しくなりそう(カウンターからブラケット・ツイズルからブラケットのような組み合わせであれば楽だろうと思っていました)なんて書いてしまいましたが、b)を見てあっさりと態度を一変、これは大変そうです。というか、5月17日の日記の元資料にも、b)がばっちり出ておりました、私の勘違いでした。ごめんなさい。
“Combination of difficult turns (rockers, counters, brackets, twizzles) quickly executed in both directions” presumes that:
a) at least 2 different types of difficult turns must be executed;
b) in each direction at least 2 turns must be executed;
c) bullets a) and b) above must be completed twice;
d) the number of times any type of difficult turns can be used during this combination is unlimited, however only 2 turns of the same type will be counted for “variety”;
e) the combination must be executed quickly.
難しいターン(ロッカー・カウンター・ブラケット・ツイズル)のコンビネーションを両方向に素早く行う、とは、以下のことをいう。
a) 少なくとも2種類の異なる難しいターンで行うこと
b) 両方向でそれぞれ2回以上のターンを行うこと
c)  a)とb)を二度、行うこと。
d) このコンビネーションで使うことの出来るどんな種類の難しいターンにも回数に制限はないが、同じ種類のターンは2回だけ“variety”としてカウントされる。
e) コンビネーションは素早く行わなくてはならない
b)は、“Combination of difficult turns”は少なくとも左右で2回ずつ、合計4回以上のターンで構成されることを意味しているのだと思います。この4回以上のターンは、a)によって、ロッカーを4回続けるような1種類のターンのみで構成されたものは駄目ですよ、ということなのだろうと思います。この4回以上のターンを全て左回り→右回り→左回り→右回り・・・のように方向を変えながら続けなければならないとしたら、とても大変そうです。c)によってこの4回以上の連続ターンがシークエンス中に二度認定されてはじめてレベル獲得要件となる、つまり、レベル獲得には最低でも8回のターンが必要となるということだと思います。
 d)の解釈ですが、このコンビネーションで行われたターンは、レベル3の要件である“variety”としてカウントされ、レベル4の要件である “complexity”としてはカウントされない、ということではないかと思います。とすると、レベル4を獲得するにはこのコンビネーション以外の箇所でそれぞれのターンを行わなくてはならないということで、総合的に見て、『回転方向の素早い転換』は、ハードルが下がったどころか、大変難易度が増したということのように思います。
パターンの半分以上を片足で行う。
 この『パターンの半分』が、距離に対するものなのか、ステップの数に対するものなのか、もし後者であれば大変だろうと思っていたのですが、いくつか出始めた新プログラムを見ると、距離に対するものということのようです。

  • スパイラルシークエンス(女子シニア)

ショートプログラムで行われたスパイラルシークエンスはトランジションで評価される。
 このように明文化されると、スパイラルシークエンスを入れた演技とそうでない演技にはTRで差がつきそうにも思えます。注意深く見ていきたいです。

  • スピン

変形が13に区分されました。画像つきで説明されています。
 キャメル おへその向きが、前・横・上
 シット  フリーレッグの位置が、前・横・後
 アップライト 胴体の向きが、前かがみ・直立またはひねり・ビールマン
 レイバック 
 中間姿勢  
 スピードアップ
 スピン中のジャンプ
変形の繰り返し
 同じ区分の変形が同一プログラム内で繰り返された場合、その繰り返された変形が最初の変形の重心または中心が著しく異なる場合のみ、レベル上げの要件としてカウントされる。3度目以降は、異なる足で行ったとしても、レベル上げの対象とはならない。
 先日の日記で書いた、後方支持のキャッチフットとビールマンは、ビールマン姿勢が独立していることから、両方がカウントされるということだと思います*1。また、アップライトのI字とY字は、フリーレッグの位置が前と横で異なると判断された場合、両方がカウントされるのでしょう。

*1
 アップライトのキャッチフット姿勢については、今回の資料の画像CFの左のものではキャメルに区分されていますが、こちらの資料(ビールマンおよび類似姿勢)によると、その入り方によってアップライトともキャメルともなりうるとされています。
『“類似” とは、フリー・レッグの位置が頭の高さを超えるが(ビールマン姿勢で要求されている)頭上(回転軸近く)には達しない姿勢を意味し、スケーターはアップライト姿勢からそのような姿勢を取ることができる。しかしながら、スケーターがキャメル姿勢からフリー・レッグを掴みそのような姿勢に達した場合には、アップライトではなくキャメル姿勢のバリエーションであるとみなされる。』
 仮にここでいう類似姿勢を最初はアップライトから、二度目はキャメルからで繰り返した場足、最初は“UPRIGHT FORWARD”二度目は“CAMEL FORWARD”と別の区分に分けられ、全く同一の姿勢でありながらも二度認定されることになります。ただ、これは08〜09シーズンのものですので、今季はボツということなのかもしれません。

  • ジャンプ

明らかな前向き踏切(アクセルジャンプでは明らかな後ろ向き踏切)は、“downgraded jump”とする。
 踏切時のチートは、UR(記号<)ではなく、より罰則の重いDG(記号<<)が適用されるということです。このように差別化することによって、微妙なエラーが踏切時にとられたものか、着氷時にとられたものかがはっきりします。
 例えば、昨季ロステレコム杯女子SPレオノワ選手の3F-2T<(1:05)は、恐らく踏み切り時のチート(トウアクセル)をとられたものであると思われますが、中国杯女子SP鈴木選手の3Lz-2T<(0:43スロー4:20)は、トウを突いた瞬間にRBOがぎりぎり残っているようにも見えますが、踏切時・着氷時どちらでエラーをとられたかは私には微妙に思えます。今季からはスペシャリストが踏切時のチート(トウアクセル)であると判断したのであれば3Lz-2T<<、着氷時の不足と判断したのであれば3Lz-2T<と表記が分かれます。

ISUルール変更2

ISU Communication No.1619
例によって、これは、と思った変更と、それについて思うところを書いてみます。

  • ショートプログラムの要素が7つに減りました。(今季までは8つ)男子ではステップシークエンスが2つから1つに、女子はスパイラルが無くなり、トランジションでの評価となりました。

 今季までと比較して、男子で30秒前後、女子で20秒前後の時間的余裕ができることになります。この時間を、つなぎの要素、レベル獲得が難しくなったスピンや、ステップにあてることになります。ステップにおいては、今季まではレベルが上がるに従って要求内容が厳しくなってた「上体の動き」が全てのレベルで統一され、また、「回転方向の素早い転換」が明確化されたことにより、多くの選手がレベル4の構成にしてくることが予想されます。こうなると、一つ一つのターン・ステップをいかに正確に踏んでいるかがレベル獲得の鍵となりそう。ステップに多くの時間を回す選手が増えるように思います。

 2Aと3Aの基礎点差は、5.2点。トリプルジャンプを一つ余計に跳んでしまう計算になりますから、3Aを組み込む破壊力は凄まじいものがあります。これは、浅田真央選手にとって強力な追い風となりそうです。
トリプルアクセルを入れない、最強構成
 3Lz-3Lo(3T)、3F、2A 基礎点 19.7(18.7)
浅田選手が選択しそうな構成 《 》内は仮に3A<となった場合の基礎点
 3F-2Lo、3Lo、3A 同 20.7《18.2》
 3Lo-3Lo、3F、3A 同 24.0《21.5》
 3F-3Lo、3Lz、3A 同 24.9《22.4》
 最も難易度の低い一番目の構成でも、トリプルアクセルを入れない選手と1.0(2.0)点の差があり、更にジャンプのGOE幅が縮小され相対的に基礎点の重みが増したことにより、3Aが認定されれば圧倒的に優位に立つことになりそう。三番目の構成は、コンボセカンドがループということで一般的な男子選手をも上回る超絶難度で、全てのジャンプで気を抜けない構成であることもあり、ソチ五輪へむけた究極の目標といえるかもしれません。
 過去の解禁例を見てみますと、女子SPでソロジャンプのトリプルが解禁されたのが94〜95シーズン、男子ジュニアSPでトリプルアクセルが解禁されたのが08〜09シーズンだと思います。どちらの例も、かなりの数の選手(特に前者は国際大会レベルであればほとんど全ての選手)がプログラムに組み込むことが予想される状況での解禁であっただけに、この提案が理事会で承認される確率は低いと予想しておりましたので、今回の解禁には正直、驚きました。別の見方をすれば、この変更が近い将来、自国選手に有利に働くと計算している理事国が存在するという考えも出来なくもないように思われ、複数の選手の挑戦が見られるかもしれないという期待を持ちたいです。

  • 男子シニアSPにおいて二度の異なる種類の4回転ジャンプが可能になりました。

 一つはコンボで、もう一つはソロでとなっております。4S−4Tコンボ等は不可ということですね。(って、4−4コンボ出来る人、いませんよね^^)

  • 男子シニアSPにおいて、フライングスピンのランディング姿勢と、単一姿勢のスピンは異なるものでなければならない。

 例として、フライングキャメルスピンと足換えシットスピンの組み合わせが挙げられています。今季世界選手権SPを調べましたところ、シットスピンの88回に対し、キャメルスピンは僅かに4回。昨季、ジュニア男子の指定であったCCSpのレベル認定の低さからも分かるように、キャメルスピンはレベル獲得が大変に難しい姿勢だといえそう。恐らく、現在、男子選手は必死にキャメルスピンの練習をしているのだと思います。(フライングスピンはアップライトも認められていますので、FUSpとCSSpの組み合わせが多くなるような予感もなくはないのですが・・・やっぱり、キャメルがみたいです)

フリーで2Aを3回入れていた選手というと、真っ先にキム・ヨナ選手が思い浮かびます。来季、セカンドトリプルを1回減らし、難易度を下げた構成にするのか、それとも苦手としているトリプルループに挑戦してくるのか、注目です。確率が低いとはいっても、降りたときには幅のある美しいループを持っていますので、是非ともプログラムに入れて欲しいです。
 実は、来季からハーフループのみを挟んだ(今季までの)ジャンプシークエンスはコンビネーションとなることもあり、
 3Lz-3T 2A-3T 2A-1Lo-3S 3Lz 3F 3Lo 2A (基礎点 45.2)
 のような、超攻撃的な構成を試みる選手が出現するのではないかと秘かに期待していたのですが、今回の変更により不可能となりました・・・さすがにここまではないか・・・
 先日の変更であった、中間点の導入・3A以上のGOE減点幅縮小・3Lz以下のGOE幅縮小、今回の変更点である、女子SP3A解禁・FSでの2A回数制限の強化、これらは全て、難しいジャンプにどんどん挑戦しなさい、というISUのメッセージのように思われます。このメッセージを受けて、各陣営がどのような対策を講じてくるのか、来季の本格的なシーズンインを興味深く待ちたいと思います。

ISUルール変更

Communication No. 1611 
ISUから来季のルール変更点が公表されました。節目の五輪が終わったこともあってか、かなり大幅な変更となっています。ざっと読んでみて、私がこれはと思った変更点をいくつか書いてみたいと思います。

  • ジャンプの基礎点および加減点の係数が変更されました。

 相対的にループ・ルッツの価値が上がり、サルコウ・フリップは下がったと言えそう。加減点幅は、ルッツまでのトリプルは1.0刻みであったものが0.7刻みとなり、トリプルアクセル以上のジャンプは、加点と減点の幅が統一されました。

  • 回転不足ジャンプの取り扱いが大きく変わりました。

 回転不足ジャンプは、90度を超え180度に満たないもの(Under-rotated“<”)と180度以上のもの(Downgraded“<<”)に分けられました。混同を避けるため、正式な日本語訳が出るまでこの日記では“UR”と“DG”というように書いていこうと思います。DGジャンプは今季までと同様、1回転下のジャンプの基礎点となりますが、URジャンプは試みたジャンプの70%程度の基礎点を獲得できます。今季は、回転不足の判定がジャッジには伝えられなかったものが、来季からは再び通知されることになりましたが、URジャンプのGOEの最終値は“not restricted”となり、ゼロまたはプラスも可能となりました。これらは、本当に大きな変更だと思います。基礎点・減点幅の見直しと合わせて、超高難度ジャンプへのハードルが一気に引き下げられたといっても良いと思います。
一例として、08グランプリファイナルで安藤選手が不足判定を受けた4回転サルコウを見てみます。

不足前基礎点 不足後基礎点 減  点 最終獲得点
当時 10.30 4.50 −1.60 2.90
来季 10.50 7.40 −1.60 5.80

08当時は3Sの基礎点(4.50)を大きく下回る得点(2.90)となっていたものが、来季は3Sの基礎点(4.20)を1.6点も上回る点(5.80)を得ることになります。更にこの計算は、不足ジャンプに対するGOEの最終値がマイナスに限定されていた当時のものですので、5.80という点数よりも大きなものを期待できるといってよいと思います。このように、来季からは各ジャッジが出すGOEの平均値が−2までに収まれば、1回転少ないジャンプの基礎点よりも大きな得点を獲得できることから、男子を中心に高難度ジャンプへの挑戦が劇的に増えるのではないかと期待しています。
(ここからは私の脳内妄想)
ただし、不完全なジャンプを蔓延させる可能性をも秘めている変更と言えないことも無く、今回の変更が“改正”といえるかどうかは、時間をかけてみていく必要があるように思います。伊藤みどり氏は、ジャンプの回転が足りないと、吹っ飛ばされ豪快にしりもちをついていましたが、スピードを殺さずに踏み切り、十分な幅を持ったジャンプは90度とは言わなくとも、120度程度以上不足すれば大きなミスをしてしまうと思うのです。半回転近くも不足しているのに、何事も無かったかのように片足で降りてしまうということはすなわち、そのジャンプに大きさがないということであり、“回転が足りていなくても片足で降りることができる技術(ジャンプ)”は“流れのある美しい姿勢を持った着氷をする技術(ジャンプ)”とは別のところにあるようにも思われ、特にノービス・ジュニア選手の育成に悪影響を及ぼす可能性はゼロとは言えないように感じています。(妄想おわり)
 今回の変更によって、新採点システム導入以来、“難易度よりも質”を優先してきたISUが、五輪をきっかけにその方針を大きく転換したといって良いと思います(回転不足については今季既に一部緩和されてはいましたが)。

  • ステップシークエンスの『回転方向の素早い転換』が明確化されました

 “Combination of difficult turns (rockers, counters, brackets, twizzles) quickly executed in both directions (at least twice within the sequence)”
“難しいターン(ロッカー・カウンター・ブラケット・ツイズル)のコンビネーションを両方向に素早く行う(2回以上)”
 となっています。今季は、3回以上だったのですが、“turns and steps(ここでいうstepsとは両足ターン)”と幅がかなり広く*1、『3箇所目はどこにあるん?うーん、わからん』と思うものもありましたが、来季からはわかりやすくなりました。ブラケットがはっきりした形で加えられたことにより、この要件はかなり満たしやすくなるのではないかと思います。(7/22明確化を受けて削除、かなり大変そうです。早めに日記にしたいと思います)

  • スピンの変更

1.二つ目の変形の範囲が狭められました。今季のものの記憶が曖昧なので変更を意味する下線部をそのまま書きますと、
足換え単一姿勢スピン・・・一つ目とは異なる足で
コンビネーションスピン・・・一つ目とは異なる基本姿勢で
足換えコンボスピン・・・一つ目とは異なる足、かつ、異なる基本姿勢で
2.チェンジエッジが、シット(バックインからフォアアウト)・キャメルのみとなったようです。フライングシットスピンのレベル4の定番(難しい入り・変形1・チェンジエッジ・変形2)のチェンジエッジはバックアウトからフォアインでのものですので来季からは認定されないということのように思われ、ほとんどの選手が、変更を要求されることになります。アップライトのチェンジエッジは一部のものを除いて美しさが損なわれると感じていたので良いのですが、もともと重心が後ろにあるレイバックでのチェンジエッジは大変に難しいものだと思います。苦労して習得された選手にはちょっと気の毒です。ビールマン姿勢を取れない選手がレイバックでレベル4を獲得するのは、不確定な部分の多いスピードアップに頼る部分が大きくなりそう(一応、バックエントランスもありますが実施していた選手は村主選手くらいだったように思います)。ビールマンポジションは“レイバックではない”ので、純粋なレイバック姿勢のみでのレベル4獲得の定番のようなものがあっても良いのではとも思うのですが。
3.チェンジエッジ・いかなるタイプの変形もプログラムにつき一度だけカウントされる。この変形については、同じもの(ドーナツ・ビールマンキャノンボール等)を二度以上やっても、レベルは上がらないということでしょうか。もしそうであれば、似たような姿勢(アップライトにおける後方支持のキャッチフットとビールマン、I字とY字など)の取り扱いはどうなるのかも、気になるところです。
4.足換えコンボにおいてレベル2以上を得るには、左右両足で少なくとも1種類の基本姿勢を取らなくてはならない。例えば、安藤選手は今季SPで、左足キャメル・シット、右足アップライトのみでレベル4の構成でしたが、これでは来季はレベル1となってしまう、ということだろうと思います。
 その他にも、アップライトで逆回転を続けざまに行うものもアウトとなり、お得なレベルアップの手段はかなり減ったといってよさそう。これらの変更により、変形の持ち数の少ない選手のレベル獲得は、大変になりそうです。個人的には、8回転によるものが多く見られそうで楽しみでもあります。スピンの“回る”という最も大切な技術を堪能できる部分だとも思いますし。
*1
例えば、鈴木明子選手が4大陸選手権SPでレベル4を獲得したストレートラインステップシークエンスには、多くの選手が採用している連続チョクトゥや連続ロッカーははいっていません。
RFトウ(反時計回り→)LBI(時計回り→)RFI(ロッカー反時計周り→)RBI(時計周り)→LFI(モホーク時計回り→)RBI (2:21~2:23)
LFO(ループ反時計周り→)時計回りトウステップ (2:30~2:32)
このような動きが、回転方向の素早い転換に該当したのだろうと思います。ひょっとすると、2:41のカウンターから足を換えてのブラケットも含まれていたのかもしれません。