来季GOE・レベル等変更1

http://isu.sportcentric.net/db//files/serve.php?id=1427
ISUから来季に適用されるGOE基準・レベル要件が公表されました。いくつか気になる点を述べてみます。
Ⅰ 回転不足判定に係る変更がなされました。(P9)
The sign “<” will not be shown to the Judges. They will evaluate the GOE as they see it (without slow motion).(スペシャリストが回転不足判定を下したこと(The sign”<”)は、ジャッジには通知されない。ジャッジはジャンプの出来映え(GOE)を(等速で)見たままに判断する)となっています。
これは非常に大きな変更だと思います。今季までは、スペシャリストにより下された回転不足判定は、即座にジャッジに通知され、ジャッジはその通知を受けて必ずGOEの最終値をマイナスの範囲で出していました。来季は、罰則規定も『Under Rotated -1 to -3』と、GOEの最終値がゼロまたはプラスも可(右段のものは全て同様)となりました。
この罰則が、どのように運用されるかは来季になってみないとわからないのですが、通常の踏切・着氷をすれば120度前後以内の回転不足にはマイナスの最終値となることは少ないだろう、と思っています。
というのも、今季も『90度以内の回転不足(−1〜−2)』という似たような規定があったからです。運良く回転不足判定を免れた(実際には90度超不足している)ジャンプは、厳密にいえば必ずこの罰則の適用を受けなければならないはずですが、実際にはマイナスをつけるジャッジはほとんどいなかったからです。この理由で、一見してそれとは判別できない90度を僅かに超えた回転不足判定を受けてしまったジャンプに対するGOEでの罰則は実質的には無くなるといってよいのではないかと思っています。
Ⅱ 『Poor take−off』の具体例が示されました。(P9)
『cheating at the take-off (踏み切り時のチート)』『putting the full blade on the ice in toe jumps (トウジャンプで氷に全ブレードをつく)』となっています。
『踏み切り時のチート』についてですが、ファーストエイドの中で『Cheat(チート)』という言葉が出てくるのは、回転不足判定に係る項のみで、要は『回転のごまかし』という意味であろうと思います。例を挙げると、トウを突いて即座に跳びあがり空中で回転を開始するのが良いとされる、ルッツジャンプ・フリップジャンプでトウをついた足がいつまでも氷面に残っていて、実質的には氷上で回転を稼いでいるような状態を差すものと思います。また、サルコウジャンプで右足の振り上げ(順回転)が通常よりもやや遅いようなケース、トウループジャンプ・ループジャンプで『踏み切り時のダウングレード』まではいかないが、これに近いようなケースにも適用があるかもしれません。(訂正:日本語訳“トゥ・ジャンプにおける踏み切り時のごまかし”を受けて削除しました)
次に、『トウジャンプで氷に全ブレードをつく』についてです。トウジャンプは文字通り『トウピック(ブレード先端のギザギザの部分)』を氷面に突いて跳びあがるジャンプですが、中にはトウピックを突いた後即座に跳びあがらず、エッジに重心を乗せるようにして踏み切る選手がいます。これにより、軸が安定し、更には上記の『踏み切り時のチート』を誘発する、という現象がたまに見られます。この現象の結果として、安定性の高い、回転に余裕のある着氷ができるわけですが、このようなジャンプは決して質が良いとは言えず、今回この部分にメスが入ったのだろうと思います。
昨季の日記で、
“今回の変更に当てはまりそうだな、と私が思いつくのはトウジャンプ(特にルッツ・フリップ)でのトウの突き方(トウピックだけを突いているかエッジが氷に触れているか等)やトウレッグの離氷のキレくらいなのですが”
と述べましたが、当たらずしも遠からず、といったところでしょうか。
この、『Poor Take Off』の罰則規定は今季からありましたが、このようにわざわざ例示した、ということは、今季の変更で意図した減点が実際には期待したほどはなされなかったということ、いいかえれば来季ははっきりそれと判る形での減点が起こりうると考えるのが自然な気がします。これらの癖を持つジャンパーは、なんらかの決断を求められるかもしれません。

追記 今回示された『Poor take-off』とは無縁の理想的な踏み切りの例として写真を貼ります。


上がトウを突いた瞬間、下が完全離氷の瞬間です。氷上ではほとんど回転をしないで跳び上がっているのがよくわかります。(安藤美姫選手 09世界選手権FS 3Lz−2Loより)