世界選手権(男子FS)

ライサチェク選手が新王者に、チャン選手が銀、ジュベール選手が銅。小塚選手6位、織田選手7位、無良選手15位。日本男子辛くも次期五輪3枠を死守!!!
総合結果 
SPプロトコル 
FSプロトコル 
エヴァン・ライサチェク選手
プロトコルにマイナスが一つもない完璧な演技で、見事、初優勝を果たしました。ショートに続いて物凄い気迫の感じられた、永久保存版の演技です。余談ですが、最後のコンビネーションスピンの足換え後のシットポジションであれだけガッツポーズをしながら軸がぶれないことに妙に感心してしまいました。
パトリック・チャン選手
課題の後半のトリプルアクセルからのコンビネーションで、セカンドトウループを跳ぶときにうまくトウが突けずシングルになりましたが、もともとダブル予定でしたので失点は最小限です。他にループが2回転となるミスがありましたが、全体的に見事に曲を表現していたと感じました。今季のチャン選手のプログラムはSP・FS共に見事に思え、特にSPはお気に入りです。
ブライアン・ジュベール選手
前半の二度目のトリプルアクセルでのステップアウトは身体を開くのが若干遅れ、僅かに回りすぎてしまったのが原因のように見えます。その後のジャンプは余裕綽々、後半の連続ルッツ、フリップの着氷も完璧でした。それだけに、最後の、そしてジュベール選手にとってはなんと言うことは無いはずのジャンプ要素であるダブルアクセル(恐らくコンビネーション予定)でやはり回りすぎてしまい転倒したことには驚きました。この最終盤での転倒によるタイムロスで続く2つのスピンのレベルが3と1、銅メダルに終わりました。荒川静香氏が解説されていましたが、勝利を確信した後の一瞬の気の緩みだったのでしょうか。演技終了後の落胆の表情は見ていて痛々しいものを感じました。それでもシーズン序盤から考えればさすがの調整力、貫禄十分の演技でした。
小塚崇彦選手
今季、冒頭に入れていたクワドトウループダブルアクセルに変更。これは、五輪枠取りが関係しているかも知れません。そのダブルアクセルですがバックスパイラルからの見事な流れのものでした。(このジャンプに加点していないジャッジが1名います。何故?)トリプルジャンプは全体的に少しずつ着氷が乱れています。不安になりながら見ていたのですが、体力的に最もきつい位置に入れている後半のトリプルアクセルにしっかりとダブルトウをつけ1回目のミスをリカバリー。彼に出せる力をフルに出し切った演技だったと思います。
織田信成選手
もうこれで何度目でしょうか、織田選手がコンビネーションジャンプ回数違反(*1)を犯してしまったのは・・・前半の3つのジャンプ要素を終えたときには、既に嫌な予感がし、後半の2度目のトリプルアクセル(これを3連続にするのが正解です)を単独で跳んだ時、その嫌な予感はほとんど確信に変わってはいたのですが・・・続くトリプルフリップ着氷時に完全に身体を開かなかった瞬間、奇声を上げながらへたりこんでしまいました。あのケアレスミスさえなければ、結果的に全選手中トップの技術点を獲得できていた可能性の大きい素晴らしい演技だっただけに尚更、残りの演技時間が虚しく感じられました。(新採点に毒された1ファンの悪い病気ですね。旧採点であればそこまでスコアに影響しなかったのでもっと純粋に楽しめたのですが・・・)基礎点だけでも10.93点の損失です。何らかの対策を講じてもらいたいです。(個人的には現在のルールでは、2A−3Tの魅力で触れたように、(1回しか跳ばない)4回転ジャンプをコンビネーションにすることはリスクばかりで見返りがほとんど期待できないので反対です。他にもトリプルアクセルを両方コンビネーションにする等の方法もあると思うのですが・・・)
とはいうものの、全ジャッジがプラスをつける完璧なクワドトウ−トリプルトウのコンビネーションを降りたことは、来季のSPでのコンビネーションジャンプ、FSでの2回のクワドトウループの可能性が開けたという意味では、大きな収穫だったと思います。
*1 同種同回転ジャンプ・コンビネーションジャンプ回数規定
3回転以上の同種ジャンプは2種類まで2回跳ぶことが出来る。種類が同じでも回転数の異なるジャンプ(例:3Tと4T)は別種のジャンプとする。
その2回跳ぶジャンプの内、少なくともどちらか一方はコンビネーション(またはシークエンス)としなければならず、双方を単独で跳んだ場合、後に跳んだジャンプはシークエンス扱い(基礎点*80%)され、コンビネーションの権利を1回消費したものとする。
コンビネーションジャンプは3回まで跳ぶことが出来、内1回は3連続とすることができる。
コンビネーションジャンプを4回以上跳んだ場合、4回目以降はファーストジャンプを含めた全てのジャンプが無効(0点)となり、更にジャンプの権利(男子8回、女子7回)を1回消費したものとする。

無良崇人選手
ライブで映像を見ることが出来ず、先にスコアと順位だけを知ったのでほろ苦いワールドデビューになってしまったのかと思いましたが、サルコウでの転倒を除けばフリップのエッジエラーとループのDGという目立たないミス、堂々とした演技だったと思います。着氷時の身体の伸ばし方、スピン、表現力とまだまだ課題はたくさんありますが先につながる素晴らしい内容だったと思います。
ざっとプロトコルを見て何よりも気になるのは、上位選手のなかで日本の2選手の演技構成点5項目の内、SS(スケート技術)とその他の4要素「TR(要素間のつなぎ)PE(演技力)CH(振り付け)IN(曲の解釈)」の落差が際立っている点です。

   SS TR−SS PE−SS CH−SS IN−SS
小塚・織田平均   7.33    −0.60    −0.28   −0.35   −0.40
他5選手平均    7.63    −0.18    +0.08   +0.06   +0.16

PCS5項目の中でも、PE・CH・INはその日本語訳の通りジャッジの主観によるところが大きく、それだけに会場を味方につけたもの勝ちの感を強く抱きました。圧巻なのがコンテスティ選手。SS7.30に対し、PE7.60 CH7.55 INにいたっては7.80を獲得しています。ある意味では、プログラムそのものが全選手中最も評価されたといってもよいと思います。個人的にはややスピード感に乏しいどちらかといえば退屈な演技に感じられたので、このスコアは本当に衝撃です。観客を惹きつける、圧倒する、度肝を抜くような演技が求められているのかもしれません。