五輪・世選代表選考基準公表

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 日本スケート連盟より、来季主要国際大会の派遣選考基準が公表されました。気になるバンクーバー五輪の選考基準は、以下のようになっております。(日本の枠は、男子シングル3、女子シングル3、アイスダンス1です)
(ここより抜粋開始)
4 オリンピック代表選手選考基準
① グランプリ・ファイナル3位以内の日本人最上位者を、その時点で内定する。この場合でも、原則として、全日本選手権への出場が条件となる。
全日本選手権優勝者は、原則として、選考するものとする。
③ 以上の後、残る派遣枠については、
a 全日本選手権3位以内の者
b グランプリ・ファイナル進出者
c 全日本選手権終了時点でのワールド・ランキング日本人上位3名(組)
を選考の対象とし、競技会での獲得ポイント、演技内容、ワールド・ランキング等を総合的に比較して、選考する。なお、過去に世界選手権6位以内に入賞した実績のある選手が、シーズン前半にけが等で上記③の選考対象に含まれなかった場合には、オリンピック時の状態を見通しつつ、選考の対象に加えることがある。
(抜粋終わり。ここからは、男女シングルの話です)
 確実に選出されるのは①と②。①は、該当者無しの場合も考えられ、この場合および①と②の該当者が同一選手の場合は、2名が③の基準により選考されることになります。その③ですが、まずa〜cで対象者を選出するわけです。a.に関しては文句なしなのですが、b.の基準は、トリノ五輪シーズンに荒川静香氏が170点台という半数のグランプリ大会で優勝できるスコアを出場2大会で出しながら、強豪ひしめく大会に当たってしまったがためにファイナル出場を逃したという経緯もあり、運の要素も少なくありません。更に、c.のワールド・ランキング(男子 女子)は、男子でベルネル選手、女子でコストナー選手が1位にランクされているように、正確に実績・実力を反映する指標ではありません。
 とまあ、ここまで書いたことをうまくまとめられないのですが、全日本選手権に大きな比重を置いていた去年(*1)までとは異なり、五輪選考は、国際的な評価・GPFを中心とする国際大会の結果の比重を飛躍的に大きくしたということは間違いないようです。
それが理解できるのが、去年の『全日本選手権の上位2名を選出する』と比べて、『全日本選手権“優勝者”は、“原則として(*2)”、選考する』と大きくトーンを下げている点。更に、『競技会での獲得ポイント、演技内容、ワールド・ランキング等を総合的に比較して、選考する』と述べられている点。ここは、去年は『残る1名は全日本選手権の順位・内容、当該シーズンの国際大会のベストスコアとその内容を総合的に考慮した上で選考する』という表現で、全日本選手権を国際大会より上位に位置づけていると思わせる内容でした。今年は、全日本選手権の比重を下げ、五輪代表選考には一発勝負を極力避けたいという、連盟の思惑が表れていると思います。
 読み返してみると、なんだか批判めいた文章に見えますが、そのようなことは全く無く“不測の事態を細かくシミュレートして、議論に議論を重ねて作成された文章であり、これ以上具体的にするのは無理、というより危険なのだろうな”というのが本心です。これまでに何度か述べたように、全く同じ演技をしても判定基準をどこに設けるかによってスコアが大きく上下するという現状があると、シーズンベストも全くとはいわないものの、信用の薄い単なる参考数値に過ぎない側面もあるわけです。
例えば、基準の甘い甲大会に出場したA選手のスコアは175点、厳しい乙大会に出場したB選手は170点。これが、両選手の(国際大会での)シーズンベストだったとします。でも、B選手のDGされた2つのジャンプは甲大会の基準であれば認定されていて、A選手のスコアを超えていた可能性が高い、なんていうケースも十分に想定できるということです。逆のケースも考えられます。大会毎に基準が変わった去年の再来が無いとは、現段階では断言できません。シーズンベストを重視したいけれども、このような現状ではとてもではないがそれを判断基準には出来ない、というのが連盟の本音ではないでしょうか。『総合的に比較して判断する』としか言いようの無い連盟の立場も理解できる、というかこの『総合的な比較(*3)』は、絶対に必要、かつ、非常に重要な作業といわなくてはならないと思っています。
この今回公表された基準ですと、誰もが納得できる代表選考の結果とはならないかもしれません。しかし、実質全日本一発勝負となった昨年も、男女共に判定一つで3位以下の順位が入れ替わる僅差での決着となっており、複雑な思いをされたファンの方もいらっしゃるでしょう。また、客観的で明確な指標に基づき選出されたトリノ五輪派遣選手についても、大きな物議を醸した事実もあります。結局、採点競技であるフィギュアスケートでは、よほど実力で抜けた選手がうまい具合に枠の人数分だけいるという偶然がなければ、全ての人々を納得させることの出来る選考などありえないのだと思います。
 ただ、僅差での決着となった場合には、その細かい選考理由を公開することは絶対に必要で、それも連盟のするべき最も大切な仕事の一つだろうと、思っています。
*1
フィギュアスケートのシーズンの区切りは7月1日で、正確には、まだ今季は終了していません。誤解を防ぐために、今季・来季という表現は避け、去年・今年という表現を多用しています。ご了承ください。
*2
この“原則として”は、アイスダンスのみに適用なのかもしれません。(大本命と思われるリード組が欠場した場合など)
*3
 大会で出された各選手のスコアを絶対視せずに、日本スケート連盟が独自に統一した基準を、場合によっては複数設けて、VTR等でDG判定・レベル認定等を再検証する作業は大切になってくると思います。とはいうものの、リンクの条件、相手関係、滑走順、判定傾向(DG基準が甘ければ、高難易度の技に挑む可能性も増える)といった、同一にはなりづらい条件もあり、この点での判断は困難を極めることになるかも知れませんが・・・