ヨーロッパ選手権(男子)

結果はこちらから
今大会は、Youtubeで見ただけということもあり、大会の感想というよりは有力選手の五輪の展望その他という感じです。

 4−3コンビネーションとトリプルアクセルの安定感が抜群。ショート・フリー共にファースト・マーク(技術点)において大きな割合を占めるこれらの大技を確実に成功させる強さが、彼に『皇帝』の称号を与えたのでしょう。ショートで僅差につけていたジュベール選手の得点が伸びず、プレッシャーが幾分軽減された状態での演技だったことは想像できますが、この安定感は五輪本番でも高い確率で発揮されるように思います。スコアも、4回転抜きの王者が誕生したここ2年の世界選手権の数字を軽々と上回り、他の選手たちに与える影響も大きなものがあるように思います。ただ、フリーで前半にジャンプを固めており、また、エッジに不安があるのか、フリップの変わりにダブルアクセルを入れているということもあり、ジャンプの基礎点が60.83(4T-3T-2Lo 3A 3A-2T 3Lo 3Lz / 3Lz-2T 3S 2A)とさほど高くはありません。(*1)
本番も今回と同様の構成であるならば、決して雲の上の存在というわけでは無いと思います・・・と言ってはみましたが、下の例に挙げた高橋選手の構成はトップクラスの多くの選手が採用する(採用している)構成で、それを最小限の失点で抑えてまとめきった選手がいなかったから、ここ2年、4回転無しの王者が誕生したともいえなくもないのですが。
 ともかく、今大会でプルシェンコ選手が余裕残しの構成で255点という数字を叩き出したことが、五輪で表彰台の中央を狙う選手たちに計り知れない圧力をかけたことは間違いありません。有力選手のほとんどが4回転に挑戦し、ミスをしたものから去ってゆくというサバイバルゲームの主役となるためにも、五輪でもその力を存分に発揮してもらいたいです。
*1
 4回転の1度入ったトリプル6種の構成例
 4T 3A-2T 3A / 3F-3T 3Lo 3Lz-2T-2Lo 3S 3Lz (基礎点64.68 今季高橋大輔選手)
 4T 3A-3T 3S / 3A 3Lz-3T-2Lo 3F-2T 3Lo 2A (基礎点65.00 今季織田信成選手)

 最大の課題であるトリプルアクセルですが、今大会では回避。プログラムの配置を見ると、ひょっとすると初めからダブルしか想定していないようにも感じられなくもありません。これにより、相対的に多くの基礎点を失うことになるのですが、その変わりに、4回転を合計3度入れることによって挽回を狙う構成となっています。ジャンプでの細かなミス、ステップでの転倒がありましたが、演技構成点ではプルシェンコ選手を抑えてトップの評価を獲得。滑りそのものの技術と、それを駆使した演技力がジャッジから絶大な評価を受けているのだろうと思います。構成点が常に高い値で安定しているという点では、ランビエール選手と高橋選手が双璧。ただ、その演技構成点をもってしても、3Aが無くては他の選手のミス待ちになってしまうように思います。

 ファイナル直前の怪我からの復帰戦。まずは、無事に競技を終えたことと、怪我の原因となったルッツジャンプを全てきれいに降りたことに安心しました。確率の高い4回転を持ちながらジュベール選手のスコアが伸びきらない(PBは240.85)原因の一つに、4回転ジャンプのアドバンテージ(*2)を最大限に生かしきる構成をこなしきれていないことがあると思います。一例として、ジュベール選手がフリーで4回転を3度成功させた06ロシア杯を挙げます。(基礎点は現在の基礎点に修正しています)
 4T-2T 4S 3A / 4T 3Lo-2T 3F 3Lz 3S (基礎点合計64.91)
 4回転を3度入れているにもかかわらず、*1で上げた高橋・織田両選手の4回転1回の構成とほとんど変わらない基礎点であることがわかります。その理由は、3Aを一度しか入れていない(後半ボーナス無視で3.7点のロス)・セカンド3Tが無い(同2.7点のロス)・3連続コンボが丸々抜けている(同2.8点のロス)、の3点です。*2で少し書きましたが、2回目以降の4回転の技術点でのアドバンテージは1回目と比較して小さく、このような小さなロスで簡単に吹き飛んでしまいます。ジュベール選手には大技を決めた後の気の抜けというか、詰めの甘さのようなものを感じることもあるのですが、最後の0.1点まで搾り出すといった執念のようなものが感じられる演技を五輪では期待したいです。
*2
新採点方式では、基礎点の存在によって4回転ジャンプ(トウループ)のアドバンテージの値を客観的に知ることができます。一般的な構成で比較すると、ショートプログラムでは4.3点(代替3F)、フリースケーティングでは4回転1回の構成で6.3点(代替2A)、2回の構成で10.1点(代替2A・3Lz)です。
 ショート 3F(4T)−3T 3Lz 3A
 フリー 3A−2T 3A 3Lz(2回目4T)−2T 3F−3T−2Lo 3Lz 3Lo 3S(4S) 2A(1回目4T)
フリーにおいて、1回目の4Tがダブルアクセルの代替となり、6.3点というアドバンテージを持つのに対し、2回目の4Tはトリプルルッツの代替となりますから点数的なアドバンテージは僅かに3.8点しかありません・・・トリプルジャンプが一つ抜けてしまえばチャラどころかマイナスになってしまう程度の数字です。新採点方式においては、トリプルジャンプ、コンビネーションの権利、ジャンプ以外の要素等、残された要素をまとめて初めて4回転ジャンプの真価が発揮されるということだと思います。逆にいえば、構成的なロスを無くし、全ての要素をまとめれば、4回転の持つアドバンテージはSP・FSそれぞれ1回ずつとしても合計10.6点あり、トリプルまでの選手には超えることが不可能な数字であるといえると思います。
 トマシュ・ベルネル選手の今季の不調は残念です。全ての要素のクオリティが高く、頂点に上っても驚きません。巻き返しに期待です。