現行の加点制度に思うこと

 バンクーバー五輪女子シングルはキム・ヨナ選手の圧勝に終わりました。プロトコルを見ていくと、キム選手の勝利は、“技の出来映え(GOE)”に大きく支えられたものであることが分かります。今日の日記では、そのGOE加点について私が思っていることを書いてみたいと思います。恐らく、これまでの日記と整合性のないものや、そもそも今日の日記の中にも、各大会の採点結果などと照らし合わせたとき、矛盾するものもあるかと思います。今後、フィギュアスケートを見続けて行く中で、考えが変わってくる部分もあるかもしれません。あくまで、現時点で私が思っていることということで、“こういう考え方の人もいるんだな”と、参考程度に読んでいただけたら幸いです。PCSについては、今日の日記の必要上、少しだけ触れていますが、私自身、スケートを見る目が未熟であったり、プログラムの内容を細かく比較分析しているわけでもなかったりといった理由で、なぜそのような数値になるのかが理解できない部分が多いです。
 現行の加点システムを理解する助けとなると思われる文書がこれです。
Program Components Overview(演技構成点概要)
 ここで注目していただきたいのは、10段階に分けられた“Mark”の中の5“Average(平均的な)”と6“Above Average(平均超の)”です、ここからISUの言うところの“Good”や“Weak”といった表現、そしてそれを元として導き出されるPCS(そしてGOE)は、『絶対的なものではなく、相対的なものである』、これをGOE加点に置き換えると、ISUの公式大会に出場する選手の演技の各要素を細分化し、その細分化された各項目がその平均よりも相当程度上回ったと判断されれば、“Good”となる(*1)ということなのだろうと思います。
 次に見ていただきたいものが、GOEの加減点基準です。(この加点基準は強制ではなく、あくまでISUが推薦(general recommendations)しているものであるということは、ご理解ください。)
ほとんど全ての加点項目で、“Good”が要求されていることが分かります。この“Good”にある項目を念頭に、参加した全選手の各要素と、キム選手の各要素を比較すると、ほとんど全ての要素が“Average”を超え、“Above Average”以上にあるといわざるを得ないと思うのです。特に他選手に大きく差をつけているジャンプを取ってみると、キム選手のように、高さ・幅・着氷後の流れ、更にはステップ・スケーティング動作からのエントリーといった加点項目を十分に備え、かつ、減点項目が一つもない選手というのは非常に少ないというのが私見です。例えば、コストナー選手はキム選手に勝るとも劣らないスピード・高さ・幅を備えた豪快なトウジャンプを跳びますが、ジャンプの準備動作が非常に長く、数名のジャッジが“Long preparation”による減点を取ったとしても仕方が無いと思えますし、素晴らしい高さを誇る浅田選手のトリプルアクセルは、着氷後の流れや、流れが止まったことによりセカンドジャンプを半ば強引につけているといった点で、思うように加点が伸びない、という結果となってしまうのも理解できるのです。NHKの解説者の方が、恐らく半分皮肉をこめて『キム・ヨナの得点は現行システムを最大限に“利用”した』という表現をしていましたが、まさにその通りで、高得点を出した、というよりむしろ出さざるを得なかった、という表現の方が近いのではないかとすら思えます。
 現在の積極加点の傾向ですが、個人的には多いに歓迎しています。以前、スピンにおいて、見苦しいポジションを取り入れてまで基礎点を稼ぎにくることの原因として、『GOEの加減点』<『レベルアップによる基礎点』であるとしたうえで、これは個人的には好ましくないように思うと書いたことがあります。ファンの方には申し訳ないんですが、例を挙げると、フラット選手のSPフライングキャメルスピン。最後のRFIのポジションは変形とチェンジエッジの2つのレベル要件を満たすお得なポジションなのですが、その姿勢と、特にそこからの出方が大変お粗末だと思います。加点がつかなかったことにより、実質的に他選手のシットスピンよりも低い評価に止まっていますが、私としては、もっと厳しい罰が与えられても良いように思います。また、例えばこの動画2:08伊藤みどり氏のダブルアクセルは、上の加点基準の1)から7)に当てはまり、恐らく加点込みでトリプルルッツの基礎点を越える得点を稼いだと想像されますが、個人的には、十分それに値する難易度と破壊力を持っていると思います。カウンターターンからこれだけのスピードのまま即座に踏み切り、両手を腰に当て、ゆっくりと回転しながら軽々と回転を終えて降りてくる。これと同じものをやれといっても出来る選手はいないでしょう。
 改善して欲しい部分もあります。まずは、高難度ジャンプのGOE係数。シングルとダブル、ダブルとトリプルには差を設けているのに、ダブルアクセル以上のジャンプの係数が全て1.0しかない、というのはおかしな話で、ある程度ジャンプの基礎点に連動させるべきだと思います。次に、コンビネーションジャンプの係数。これは、こちらの日記に書いていますが、ダウングレード判定と合わせた根本的な見直しがあっても良いのではないかと思います。最後に、極めて優れたものに対する評価です。ここに示された加点項目を鵜呑みにすると“Good”“Very Good”  “Superior”“Outstanding”の間に差が無いことになります。(*2)この日記に少し書いているのですが、(これは完全に私の好みの問題なのですけれども、)私は、平均的な高難度ジャンプよりも、難度は低くとも爆発的な大きさを備えたジャンプを見てみたいという思いが強く、そのためにも際立って質の良い要素にはある程度の基礎点の差を楽にひっくりかえせるだけのGOEをつけてもらいたい、という願いが強いです。やっぱりジャンプは高く遠くに飛んで勝負だと思うんです。新採点基準導入当時のジャンプの加点基準は、+3で“superior”という表現が用いられているように、主に『ジャンプ』そのもので評価する基準だったのですが、現在はステップからの入りや空中姿勢、着氷の工夫によってそれほどの大きさのジャンプでなくても加点が取れるようになってきてしまっているんですよね。どでかいジャンプ大好き人間の私にとっては、“good height and distance +1”“very good height and distance +2”“superior height and distance +3”なんてなってくれたら最高です^^
 なんともまとまらない日記になってしまいました。繰り返しになりますが、私は、キム選手に対するGOE評価については、概ね納得しています。全ての項目の質が一定以上にあり、加点は勿論なのですが、それと同じくらい『減点されない』というところは大きいと思います。キム選手の最大の強みはジャンプの加点であるわけですが、成功したときの加点が大きいということは、ステップアウト・オーバーターン・両足着氷といった確実にGOEがマイナスになるミスをしてしまえば相対的に大きな得点を失うことを意味します。キム選手はそのようなミスをほとんどしないんですよね。また、スピンを見ても同一姿勢を保ったまま加速が出来ていたり、足換えや出方についても上手で、徹底的な反復練習がもたらした機械のような正確さなのだと思います。今大会もほとんど全ての要素が“effortless throughout”だと感じました。演技構成点については、私自信の理解不足の部分が大きく、キム選手がトップの評価を得ることには納得ですが、特に上位にいるノーミスで演技を終えた選手との点差がこれほどまでについて良いものなのかの判断は出来ません。旧採点のセカンドマーク同様、実績点の意味合いが強く、国際大会での実績の少ない選手には、低い得点となる傾向はあるようにも感じています。
*1
ただ、全ての要素で明確に差がつき、“Good”や“ Weak”といった評価がでるわけでもないとも思っています。例えば、“good extension on landing”の“Good”については、伊藤みどり氏のトリプルアクセルの着氷のような、前後いっぱいに身体を伸ばした着氷姿勢でのランディングは少なく(このような着氷は、十分な流れが必要で、僅かな乱れが、転倒に直結するリスクが大きいことが理由にあると思います。個人的にロシェット選手のSPの2A、ゲデバニシビリ選手の3Lzの着氷姿勢は“Good”以上に該当すると思います)、この項目に関しては、“Average”前後に評価が集中しているのではないかと想像しています。
*2
差が無い、と書きましたが、これはあくまでこの基準に書かれていることで、実際のGOEの出方を見ますと、“Good”を明らかに上回る要素には、高い評価がでているように感じています。浅田選手のスパイラルの姿勢などは、GOE評価を大きく押し上げたものと思っています。

追記
バンクーバー五輪FSの感想は後日書く予定です