2A−3Tの魅力

グランプリファイナルで安藤美姫選手が初めてダブルアクセルトリプルトウループのコンビネーションジャンプを試みました。結果は惜しくも回転不足判定(2A−3T<)を受けましたが、いつ認定されてもおかしくない精度まで仕上がってきていると思います。ファイナルでの安藤選手の構成を昨季の構成、今季GPSでの構成と比較すると、現行のコンビネーションジャンプの点数の興味深い点(矛盾点?)が浮き彫りになると感じられるので、今回の記事を書いてみます。(ファイナルの構成は比較しやすいように一部変更しています。『/』は前後半の区切りです)
3Lz-3Lo,3S,3F / 3Lz,3Lo,3T-2Lo-2Lo,2A-2Lo (昨季 基礎点合計46.3)
3T-3Lo,3S,3F / 3Lz-2Lo,3Lz,3Lo,2A-2Lo-2Lo (今季GPS 同46.5)
3S,2A-3T,3F / 3Lz-2Lo-2Lo,3Lz,3Lo,3Lo-2Lo (GPF一部改 同46.65)
 上の3つの構成は全て、3Lzと3Loが二回の7トリプル+2A一回で、全体としてのジャンプの構成は同一です。コンビネーションジャンプの難易度は女子最高難度の3Lz−3Loを含む昨季の構成が最も難しく、今季GPS(3T−3Lo)、GPF一部改(2A−3T)と下がっていきます。(もちろん安藤選手比では異なるかもしれません、あくまで一般的な難易度ということです)しかし、後半ボーナスの関係で、実際に得られる基礎点は全く逆になるという現象が生じているのがわかります。
現行のルールでは、コンビネーションジャンプの基礎点はジャンプの組み合わせの難易度を無視して単純に認定されたジャンプの基礎点の和となっています。演技の出来映えであるGOE加点もダブルアクセル以上の基礎点(3.5)のジャンプが含まれていれば例外なく係数は1.0、ジャッジの平均GOEがそのままコンビネーション全体のプラス得点になります。極端な例をあげれば、2A−2T−2Lo(基礎点6.3点)だろうが、4T−3T−2Lo(同15.3点)だろうが、ジャッジの+GOEの平均が1.5なら1.5点の加点となる(加点しかもらえない)ということです。
 これは、あくまでジャンプが成功した(認定された)ことを前提としています。失敗したとなると、話は全く別のものになります。加点の際に『GOE加点もダブルアクセル以上の基礎点(3.5)のジャンプが含まれていれば例外なく係数は1.0』と述べましたが、正確には『コンビネーションジャンプのGOEは、認定されたジャンプの中で最も基礎点が高いジャンプの係数が採用』されます。つまり、2A(3.5)-2T(1.3)-2Lo(1.5)であればダブルアクセルの係数(-2.5/-1.6/-0.8/0/+1.0/+2.0/+3.0)が反映され、4T(9.8)-3T(4.0)-2Lo(1.5)であればクワドトウループの係数(-4.8/-3.2/-1.6/0/+1.0/+2.0/+3.0)が反映されます。このルールは、高難度コンビネーションへの挑戦の大きなハードル(弊害?)となっているような気がしてなりません。上の二つの3連続ジャンプの例で検証するとファーストジャンプ、セカンドジャンプをどんなに完璧に降りていようとも、サードジャンプでの転倒(規定:−2、−GOE)があり、ジャッジのGOE平均が−2.0であれば、2Aコンボは1.6点、4Tコンボは3.2点が減点されてしまいます。基礎点わずか1.5のダブルループでの転倒で、2Loの基礎点よりも大きい減点(4Tコンボにいたっては倍以上!)を受けてしまうのです。
 このような現在の採点システムを総合して考えると、+トリプルのコンビネーションを基礎点の高い難しいファーストジャンプにつけるのは、リスクばかりでほとんどそのリスクに見合ったリターンが期待できないような気がしています。ダブルアクセルトリプルトウループのコンビネーションジャンプは、他の構成と比較してローリスクハイリターンな構成といえそうです。安藤選手の構成の基礎点は、はじめに述べた通り、2A−3Tをいれたものが最も高くなりますし、今季、ますます厳しくなっているように感じられる回転不足判定を受けたときに失う点数(ジャッジのマイナスGOEの平均が1.5と計算します)も
3Lz-3Lo(11.0)−[3Lz-3Lo<(7.5)−1.5]=5.0
3T-3Lo(9.0)−[3T-3Lo<(5.5)−1.5]=5.0
2A-3T(7.5)−[2A-3T<(4.8)−1.2]=3.9
と、2A−3Tコンボは最小限の失点にとどまります。是非、このコンビネーションジャンプを習得し、FSでコンスタントに成功させてもらいたいです。3Lz−3Loと同時に回転不足なくプログラムに入れることができれば、大きな武器になるでしょう。