回転不足判定

新年、明けましておめでとうございます。本年が皆様にとって実り多き一年となることをお祈り申し上げます。
 シーズン前半が終わり、日本の男女シングルについて振り返ると、男子では怪我による高橋大輔選手の戦線離脱(回復が順調に進んでいるようでほっとしています)・織田信成選手の想像以上の形での復活・小塚崇彦選手の躍進、女子では浅田真央選手のファイナル奪還、日本選手GPS全6戦での表彰台と、シングル王国ニッポンを強烈に印象付けたと思います。一方で、プロトコルに焦点を当てると、特に女子を中心に厳しい回転不足判定(ダウングレード:以下DG判定)の洗礼を受けたものだと思います。
 今季、DG判定が厳しくなったと感じられる大きな要因に、浅田真央安藤美姫という日本を代表する選手が、思うように技術点を伸ばせなかったことがありますが、これが今後も続くという結論を出すのはまだ早い気がしています。非常に基準が甘かったと思われるGPS大会も確実に存在したからです。いかなる基準においても文句を言わせないジャンプを跳べば良いに違いないとはいうものの、今後の動向が気になるところです。今回から数回に分けてDG判定について考えてみたいと思います。
DG判定についての規定(ファーストエイド:P50)を見てみますと、
The Technical panel must call the attempted jump even if it is clear that it is under rotated and will be downgraded.(テクニカルパネルは、当該ジャンプが回転不足でダウングレードされることが明らかであっても、試みられたジャンプをコールしなければならない)とあります。
これは、“(it)will be downgraded”から見ても分かるように、DG判定をする前の段階をさしています。例を挙げると、全日本フリーでの中野選手のルッツジャンプ。タイミングが合わなかったのか空中で身体を開き回転を止め、前向きに着氷しています。回転が足りていないことが明らかであるにもかかわらず、この規定を受けていったん、試みたトリプルルッツ(3Lz)としてコールするということです。その後に、DG判定(2回転扱いを意味する“3Lz<”)を受けることになります。ただし、同じように身体を開いた場合でも、2回転で後ろ向きに着氷していればダブルルッツとして認定されます。
続けてみていきましょう。
The quarter mark of landing is the border line to identify a cheated jump. There need to be more than ¼ revolution missing.(回転不足であるか否かの境界線は4分の1回転である。回転不足判定には4分の1回転を超える不足が必要である)
4分の1回転(90度)きっちりの不足はセーフ、超えたらアウト(ダウングレード)という規定です。何故、90度なのかという疑問を感じているのですが、参考になりそうな記述を某掲示版で見かけました。ジャンプの正しい着氷は、順回転であればRBO(右足・後ろ向き・アウトサイドエッジ)で降りなければなりません。90度超不足するとそれは“前向き”での着氷を意味するので認められない、という主張でした。私にはとても説得力のある考え方だと感じられました。
少し脱線しました。更に続けましょう
The Technical Specialist will identify any jump that is cheated by more than one quarter turn on the landing as the jump of the lower value. For example, a triple Lutz that rotates 2.5 turns by the foot placement and 2.75 turns of the upper body will be called as a triple attempt then downgraded.(テクニカルスペシャリストは、着氷時に4分の1回転を超えるターンによってごまかされたいかなるジャンプも、低い価値のジャンプとして認定する。例えば、トリプルルッツジャンプでブレードが2.5回転、上半身が2.75回転しているものは、いったんトリプルルッツとしてコール(3Lz)し、それからダウングレード(3Lz<)する)
4分の1回転超のターンのあったジャンプは一段階下の回転のジャンプとして認定される。つまり、不足判定の基準は、上半身の回転ではなく、ブレードの回転にあることを示しています。
 テクニカルパネルが回転不足判定を下すと、その決定をジャッジに通知し、ジャッジはその通知を受けてGOE(技の出来映え:−3〜+3の7段階)を減らさなければならない(マイナス範囲に限定)、という規定があったと思うのですが見つけられませんでした。
通知を受けたジャッジが適用する規定は、次のようになっています。
ソロジャンプ:Downgraded (–1 to –3,–GOE)
コンボ・SEQ:Вoth jumps downgraded(–3,–GOE)
        One jump downgraded(–1 to –2, –GOE)
この『−○、−GOE』というのは、GOEの最終値は必ず負の値としなければならないことを意味しています。トリプルジャンプを試みたが、90度超回転が不足したと判定されると、ダブルジャンプと判定(2回転に格下げ)され、更に2回転の基礎点から必ず減点を受けるということです。
 DG判定は、新採点システム導入時からありましたが、導入当時は現在のような“<”表示ではなく、判定された後の回転数による表示が行われていました(現在の『3Lz<』→導入時『2Lz』、現在の『3F−3T<』→導入時『3F−2T』)。この表示は、回転不足のジャンプが『回りすぎた(質の悪い)一回転少ないジャンプでしかない』というISUの意思表示だと思われます。しかし、導入時の表示ですと、実際に何回転のジャンプを試みたのかがわからない、何よりも、同種・同回転ジャンプの回数制限違反の区別をプロトコルで判別できない(*1)という欠点があり、“<”表示が採用されたようです。(もう一つの変更点として、確か導入当時は『−○』だけの規定、つまりGOEの最終値をプラスまたは0にすることも認められていたような記憶があります。私の記憶違いかもしれませんが)
*1:特に、男子の4Tの回転不足を単に『3T』と表示してしまうケースです。例えば、全日本フリーでの織田選手のジャンプは導入当時の表示ですと『3T,3A−3T,3F−3T−2T』となり、後からプロトコルを見たときに3Tが三度試みられたような誤解を与えます。最初の3Tの表示を『4T<』とすることにより、4回転を試みたものの、回転不足判定を受けて3回転と認定されたということが判別し、同種・同回転ジャンプ回数違反を犯していないことが分かるわけです。
 ここまでが『回転不足判定』の概要です。次回は点数に与える影響などを考えたいと思っています。