回転不足判定2

前回、回転不足(DG)判定の概要を述べました。今回は、DG判定が技術点に及ぼす影響について考えてみたいと思います。
 結論から先に申し上げると、90度を僅かに超えた程度の回転不足は余程注意して見ていないと気づかないほどのミスでありながら、一見してミスと分かるステップアウト(失点2点程度)、オーバーターン(同1点)、お手つき(同1〜2点)等よりもはるかに失点の大きなミスであり、二・三回このミスを犯すと10点くらいは簡単に失ってしまいます。一般的な女子シングルのジャンプの基礎点はショートプログラムで16〜20点、フリースケーティングで40〜47点ほどですから10点というロスが技術点に及ぼす影響がいかに大きいかご理解いただけると思います。
更に分かりやすくするためにトリプルジャンプを例に表にまとめてみます。(全ジャッジがGOEで−1としたとします。この表の獲得点が、DG判定を受けた場合にもらえる最大の点数です)

Jump 3BV 2BV −1 獲得点 失点
3A     8.2    3.5    −0.8   2.7     5.5
3Lz    6.0    1.9    −0.3   1.6     4.4
3F     5.5    1.7    −0.3   1.4     4.1
3Lo    5.0    1.5    −0.3   1.2     3.8
3S     4.5    1.3    −0.3   1.0     3.5
3T     4.0    1.3    −0.3   1.0     3.0

3BV:3回転の基礎点 2BV:2回転(格下げ後)の基礎点 −1:GOE−1とした場合の減点
 トリプルジャンプと認定された上での転倒(3Aのみ−5.2、その他−4.0)に匹敵する失点となることが分かります。これほどまでに失点が大きくなる原因にテクニカルパネル(コーラー)による格下げ減点(ダブルジャンプの基礎点になる)と、ジャッジによる技の出来映え(−GOE)での減点の二重減点があります。少なくとも二回転半以上は確実に回っているジャンプが二回転よりも低い点しか獲得できないことには、疑問を感じなくはないですが、90度超回転の不足したジャンプは一見きれいに着氷したように見えて実は前向きで着氷してしまっている、つまり、正しいジャンプの最低条件(RBOでの着氷)が満たされていないという意味で、一旦、RBOで着氷した後のミスである転倒と同等の不完全なジャンプであり、GOEでプラスの評価を与えることはありえないとISUは判断しているのだろうと現時点では理解しています。
 そうであるならば、DG判定を適用するのではなく、GOEで厳しく罰する(例:転倒同様の『GOE−3』等)という方法もありそうなものですが、それを不可能にしてしまっているのがコンビネーション・シークエンスだと思います。私は、ISUはコンボ・SEQを『おまけ』に近く捉えているのではないかと想像しています。というのも、ジャンプを降りたままの足で続けて跳ぶことは、別々にソロジャンプを跳ぶよりもはるかに難しいにもかかわらず、基礎点は単純に跳んだジャンプの和にしかならない、シークエンスに至ってはその和に更に0.8倍されてしまうということ、これとは別に技の出来映え(GOE)は最も基礎点の高いジャンプの係数に基づき全体で評価を行うからです。つまり、『最も基礎点の高いジャンプ』がメインでその他のジャンプは『おまけ』ではないかという考えです。GOEを全体で評価するということは、減点できる最大の点数は最も基礎点の高いジャンプの『GOE−3』の係数を反映させた点数となります。分かりやすく極端な例を挙げますと、トリプルルッツ(6.0)−トリプルトウループ(4.0)−トリプルループ(5.0)というコンビネーションジャンプを試み、その全てのジャンプの回転が不足、更にルッツが誤ったエッジ、ジャンプとジャンプの間に1回転のターンが入り、最後のループでステップアウト、このようなジャンプでもDG判定が適用されないと《6・0+4・0+5・0》−3.0=12.0点(《基礎点》−GOE減点)が獲得できてしまう訳です。コンビネーションを考慮すると、DG判定は無くてはならないものであることが理解できます。
このように、様々なケースを想定すると、この二重減点は長時間の議論を重ねて作られた必要な規定なのではないかと考えています。ただ、大会ごとに基準が異なることは、選手のジャンプ構成、更には練習の内容にまで影響を与えると思いますので、明確な基準が明らかにされることが望ましいと感じています。