ISUルール変更

Communication No. 1611 
ISUから来季のルール変更点が公表されました。節目の五輪が終わったこともあってか、かなり大幅な変更となっています。ざっと読んでみて、私がこれはと思った変更点をいくつか書いてみたいと思います。

  • ジャンプの基礎点および加減点の係数が変更されました。

 相対的にループ・ルッツの価値が上がり、サルコウ・フリップは下がったと言えそう。加減点幅は、ルッツまでのトリプルは1.0刻みであったものが0.7刻みとなり、トリプルアクセル以上のジャンプは、加点と減点の幅が統一されました。

  • 回転不足ジャンプの取り扱いが大きく変わりました。

 回転不足ジャンプは、90度を超え180度に満たないもの(Under-rotated“<”)と180度以上のもの(Downgraded“<<”)に分けられました。混同を避けるため、正式な日本語訳が出るまでこの日記では“UR”と“DG”というように書いていこうと思います。DGジャンプは今季までと同様、1回転下のジャンプの基礎点となりますが、URジャンプは試みたジャンプの70%程度の基礎点を獲得できます。今季は、回転不足の判定がジャッジには伝えられなかったものが、来季からは再び通知されることになりましたが、URジャンプのGOEの最終値は“not restricted”となり、ゼロまたはプラスも可能となりました。これらは、本当に大きな変更だと思います。基礎点・減点幅の見直しと合わせて、超高難度ジャンプへのハードルが一気に引き下げられたといっても良いと思います。
一例として、08グランプリファイナルで安藤選手が不足判定を受けた4回転サルコウを見てみます。

不足前基礎点 不足後基礎点 減  点 最終獲得点
当時 10.30 4.50 −1.60 2.90
来季 10.50 7.40 −1.60 5.80

08当時は3Sの基礎点(4.50)を大きく下回る得点(2.90)となっていたものが、来季は3Sの基礎点(4.20)を1.6点も上回る点(5.80)を得ることになります。更にこの計算は、不足ジャンプに対するGOEの最終値がマイナスに限定されていた当時のものですので、5.80という点数よりも大きなものを期待できるといってよいと思います。このように、来季からは各ジャッジが出すGOEの平均値が−2までに収まれば、1回転少ないジャンプの基礎点よりも大きな得点を獲得できることから、男子を中心に高難度ジャンプへの挑戦が劇的に増えるのではないかと期待しています。
(ここからは私の脳内妄想)
ただし、不完全なジャンプを蔓延させる可能性をも秘めている変更と言えないことも無く、今回の変更が“改正”といえるかどうかは、時間をかけてみていく必要があるように思います。伊藤みどり氏は、ジャンプの回転が足りないと、吹っ飛ばされ豪快にしりもちをついていましたが、スピードを殺さずに踏み切り、十分な幅を持ったジャンプは90度とは言わなくとも、120度程度以上不足すれば大きなミスをしてしまうと思うのです。半回転近くも不足しているのに、何事も無かったかのように片足で降りてしまうということはすなわち、そのジャンプに大きさがないということであり、“回転が足りていなくても片足で降りることができる技術(ジャンプ)”は“流れのある美しい姿勢を持った着氷をする技術(ジャンプ)”とは別のところにあるようにも思われ、特にノービス・ジュニア選手の育成に悪影響を及ぼす可能性はゼロとは言えないように感じています。(妄想おわり)
 今回の変更によって、新採点システム導入以来、“難易度よりも質”を優先してきたISUが、五輪をきっかけにその方針を大きく転換したといって良いと思います(回転不足については今季既に一部緩和されてはいましたが)。

  • ステップシークエンスの『回転方向の素早い転換』が明確化されました

 “Combination of difficult turns (rockers, counters, brackets, twizzles) quickly executed in both directions (at least twice within the sequence)”
“難しいターン(ロッカー・カウンター・ブラケット・ツイズル)のコンビネーションを両方向に素早く行う(2回以上)”
 となっています。今季は、3回以上だったのですが、“turns and steps(ここでいうstepsとは両足ターン)”と幅がかなり広く*1、『3箇所目はどこにあるん?うーん、わからん』と思うものもありましたが、来季からはわかりやすくなりました。ブラケットがはっきりした形で加えられたことにより、この要件はかなり満たしやすくなるのではないかと思います。(7/22明確化を受けて削除、かなり大変そうです。早めに日記にしたいと思います)

  • スピンの変更

1.二つ目の変形の範囲が狭められました。今季のものの記憶が曖昧なので変更を意味する下線部をそのまま書きますと、
足換え単一姿勢スピン・・・一つ目とは異なる足で
コンビネーションスピン・・・一つ目とは異なる基本姿勢で
足換えコンボスピン・・・一つ目とは異なる足、かつ、異なる基本姿勢で
2.チェンジエッジが、シット(バックインからフォアアウト)・キャメルのみとなったようです。フライングシットスピンのレベル4の定番(難しい入り・変形1・チェンジエッジ・変形2)のチェンジエッジはバックアウトからフォアインでのものですので来季からは認定されないということのように思われ、ほとんどの選手が、変更を要求されることになります。アップライトのチェンジエッジは一部のものを除いて美しさが損なわれると感じていたので良いのですが、もともと重心が後ろにあるレイバックでのチェンジエッジは大変に難しいものだと思います。苦労して習得された選手にはちょっと気の毒です。ビールマン姿勢を取れない選手がレイバックでレベル4を獲得するのは、不確定な部分の多いスピードアップに頼る部分が大きくなりそう(一応、バックエントランスもありますが実施していた選手は村主選手くらいだったように思います)。ビールマンポジションは“レイバックではない”ので、純粋なレイバック姿勢のみでのレベル4獲得の定番のようなものがあっても良いのではとも思うのですが。
3.チェンジエッジ・いかなるタイプの変形もプログラムにつき一度だけカウントされる。この変形については、同じもの(ドーナツ・ビールマンキャノンボール等)を二度以上やっても、レベルは上がらないということでしょうか。もしそうであれば、似たような姿勢(アップライトにおける後方支持のキャッチフットとビールマン、I字とY字など)の取り扱いはどうなるのかも、気になるところです。
4.足換えコンボにおいてレベル2以上を得るには、左右両足で少なくとも1種類の基本姿勢を取らなくてはならない。例えば、安藤選手は今季SPで、左足キャメル・シット、右足アップライトのみでレベル4の構成でしたが、これでは来季はレベル1となってしまう、ということだろうと思います。
 その他にも、アップライトで逆回転を続けざまに行うものもアウトとなり、お得なレベルアップの手段はかなり減ったといってよさそう。これらの変更により、変形の持ち数の少ない選手のレベル獲得は、大変になりそうです。個人的には、8回転によるものが多く見られそうで楽しみでもあります。スピンの“回る”という最も大切な技術を堪能できる部分だとも思いますし。
*1
例えば、鈴木明子選手が4大陸選手権SPでレベル4を獲得したストレートラインステップシークエンスには、多くの選手が採用している連続チョクトゥや連続ロッカーははいっていません。
RFトウ(反時計回り→)LBI(時計回り→)RFI(ロッカー反時計周り→)RBI(時計周り)→LFI(モホーク時計回り→)RBI (2:21~2:23)
LFO(ループ反時計周り→)時計回りトウステップ (2:30~2:32)
このような動きが、回転方向の素早い転換に該当したのだろうと思います。ひょっとすると、2:41のカウンターから足を換えてのブラケットも含まれていたのかもしれません。