回転不足判定4

 ここで、判定に疑問を呈するメールをいただいたこともあり、唐突ですが回転不足測定の話に・・・はじめに書いておかなければならないことが・・・ISUによって明示された回転不足判定の基準というものは恐らくありませんので、これまで私が行ってきた、また、今日も行うジャンプの進行方向を基準とした測定は私が勝手にこうだろうと思っている方法です。しかし、難度的に余裕があると思われる男子トップ選手のダブルジャンプの多く・男女共にパンクジャンプのほとんどはこの方法でいう不足ゼロの角度で着氷していること(更に、それ以上に回転し、かつ、まともな着氷ができているジャンプを見た記憶がないこと*1)、加えて、過去の判定結果が“基準の甘い・厳しいはあるものの相対的に”概ねこの測定基準の結果に近いことなどから、間違ってはいないように感じています。(いくつか理解できない判定もあるのですが)また、ジャンプはかなりの勢いで踏み切り地点から着氷地点までぶっ跳んでおり(中国ペアのスロージャンプを想像してみてください)、ジャンプの進行方向以上に回ってしまうと、慣性の力に逆らう方向に流れていくこととなり、確実に不安定な着氷になる、ということも根拠の一つです、というか、これが最大の根拠です。着氷に係る慣性の力には、大きく分けてこの“踏み切り地点から着氷地点への力”と、“自転をしていることによる回転方向への力”があると思うのですが、理想的な着氷は空中で回転を終えてから降りてくるものですので、着氷時にかかる慣性の力は、前者のみを考えれば良いように思います。これまで、回転不足の基準がジャンプの軌道(空中での進行方向)にある、とする考えの根拠を述べていなかったように思うので、ここで書いてみました。
今回、判定の対象とするジャンプは、今季世界選手権女子シングルFSの浅田真央選手のトリプルアクセル(コンビネーションの方)と、キム・ヨナ選手の転倒したサルコウジャンプです。浅田選手もキム選手も大変な数のファンから熱烈な支持を受けていることもあり、取り上げることを避けたい気持ちもあるのですが、メールをいただいたこともあり、勇気を出して検証してみたいと思います。
 結論から先に述べると、浅田選手のトリプルアクセルの不足は135度程度、キム選手のトリプルサルコウの不足は105度から120度程度の不足であるように私には思えます。他選手の回転不足判定の出方を見ますと、同大会女子FSのDG基準は135度前後にあると思われ、浅田選手のトリプルアクセルをアウト、キム選手のサルコウジャンプをセーフとした判定に、個人的には、疑問はありません。
 回転不足の測定をするときに、真っ先にしなければならないこと、そして何よりも大切なことは“ジャンプの軌道の確定”だと、私は思っています*2。演技終了後に流される足元をアップで映した映像では、この“ジャンプの軌道”が、目の錯覚によるものなのか、場合によっては60度以上も違って見えてくることもあり、その確定には細心の注意を払わなければなりません。足元のスロー映像によるものだけの軌道の確定は真正面・又は真後ろからの映像以外では危険だと思います。
 この“目の錯覚”の一例ともなりうるのが、この大会のキム選手のサルコウジャンプです。動画をご覧ください。足元を映したスロー映像(7:14)では、このジャンプはフェンスと平行に近い軌道を空中で描いているように感じられないこともありません。しかし、全体を映した等速の映像(3:19)では、実際は、フェンスと平行ではなく、ほぼ垂直にフェンスに向かって進行していることが、ご理解いただけると思います。
実際の測定にあたって、私が手がかりにしたのが、等速映像でのジャンプの軌道(進行方向)と転倒した瞬間のブレードの向きです。図に表してみます。おわかりいただけるとは思いますが、これはリンクを真上から見た図です。

 映像が不鮮明で、着氷したときのブレードの向きはよくわかりません。しかし、『ジャンプの進行方向』と『転倒直前のブレードの向き』はだいたいこのような位置関係だと言ってよいのではないかと思います。(ちなみに、確認はYouTubeの映像ではなく、ハードディスクに保存してある地上波の映像で行っております)ここから、図に緑で印した実際の不足と氷上でのグリ降りの角度との『ズレ』が90度ほど生じている、ということができると思います。
次に、演技終了後に流れたサルコウ転倒時のスロー映像の『グリ降り』の角度を測定すると、半回転を更に超え、195〜210度程度のように見えます。ここから上で述べた『ズレ』の90度を引いた、105〜120度前後の不足というのが実際の判定ではないか、というのが私の測定結果です。キム選手のジャンプ、特にサルコウジャンプとセカンドトリプルはジャンプの進行方向と、着氷後に流れていく方向が90度近くずれていることが多いように思います。ちなみに、きれいに着氷した五輪でのサルコウでもやはり90度程のズレが生じています。
 今度は、浅田選手の3A−2Tのアクセルジャンプの軌道を見てみます。動画(1:40)こちらは、ほぼフェンスと平行方向に、わずかに、フェンスに向かって進行していることが分かります。(氷面に反射したフランスワインの看板を手がかりにすると、より分かり易いのではないかと思います)

 概ね、この図に印したような、ジャンプの軌道と着氷後の流れとなっており、実際の不足と氷上でのグリ降りの角度との『ズレ』はほとんどない、というのが私の見解です。スロー映像(6:35)で確認できる氷上でのグリ降りの角度は、私には135度程度に見え、これがそのまま、このジャンプの不足判定角度となったのではないだろうか、というのが結論です。
 繰り返しになりますが、裏づけのある検証ではありません。角度ももちろん、目分量での測定であり誤差はあると思います。参考程度にとどめてください。
*1 
回りすぎてしまったジャンプの例です。
村上大介選手09NHK杯フリー2A(4:02)
 村上選手は前半に二度の3Aを降りていますので、これは2Aを試みたものと判断してよいと思います。着氷する前に、すでにまともに降りることは出来ないと直感できると思います。ジャンプの進行方向に対して60度程度回りすぎて着氷し、その結果、ブレードがブレーキとなって足元が流れず、上半身がジャンプの進行方向に放り出されてしまっていることがわかります。回転が不足した着氷であれば、グリ降りによって、ジャンプの進行方向にブレードの向きを修正することができますが、回転過多の着氷では、グリ降りをすればするほど、慣性の力に逆らう向きにブレードが向いてしまいます。
*2
昨季の記事との重複になるのですが、極端な話、ジャンプがどの方向に向かって跳んでいるか、プラス、着氷時のブレードの向き、この2点さえ確認できれば、踏み切りの映像がなくても(つまり、ジャンプの種類・回転数が全く分からなくても)“着氷時の”回転不足判定は出来ると思っています。

世界選手権男子

高橋選手が初優勝、おめでとう!!!
結果はこちら
プロトコル SP FS

 冒頭の4回転フリップへの挑戦には、本当にびっくりしました。構えがフリップになった瞬間、トリプルに違いないという先入観、そして“クワドは回避して、しっかりまとめ、とりあえず王座の称号を手に入れて欲しい”という私個人の演技前の(ある意味卑しい)願望のようなものもありました。今回、高橋選手が引いた最終滑走というのは、他選手の出来を知った上で構成を変更できるという意味で、最高の滑走順であり、更に、実際の状況が、4回転を回避した上である程度のミスをしても十分優勝できる点数関係にありました。その状況の中で、4回転を、それもフリップを挑戦するという選択(*1)を高橋選手がとったという現実が、実は今でも信じられないでいます。
高橋選手は確か、「『道』の完成には4回転が必要」という趣旨のコメントをしていたと思います。彼にとっては、世界王者の確率を高めることよりも、『道』の完成型を世界に発信することの方が、価値があったということなのだろうと想像しています。でも、初めてのタイトルですよ、同じ状況で同じ選択ができる選手が他にいるでしょうか?
勿論、冒頭のジャンプが“3F”ではなく“4F<”であったこと、その上で他の要素をほぼ完璧にまとめたことで、その感動は比較にならないほど大きいものになりました。そして、私の味わった感動を世界中のファンの方々も持たれたのではないかと思います。優勝、おめでとう。スピンも最高でした。(何で、最後が引きの映像じゃないの?今大会のカメラワークは結構不満です)
*1
最後のジャンプが2Aコンボであったことから、回避の可能性はゼロではなかったのだろうと思います。

 二度のフリーレッグのタッチダウン、ループの転倒で合計約10点のロス。それ以外のジャンプも本来の流れがないものがありました。チャン選手のジャンプは無駄な動作が無く、質は一級品ですから、トリプルアクセルが安定し、更に4回転を装備できるようになると、手がつけられない選手になるかもしれません。SPは素晴らしかったです。正確に踏んでいるように見えるステップのGOE評価が思うようには伸びません。音楽との同調性やダイナミックな全身の使い方、観客へのアピールなどがGOEに与える影響が大きいのでしょうか。

 二度の4回転を成功させました。しかし、プロトコルを見ていただければ分かりますが、(実質)クワドレス構成の高橋・チャン両選手と変わらない基礎点となってしまっており、『構成面でのロス』が大変大きい演技となってしまいました。

 フリップがデカイ!!その他のジャンプも跳びあがってから回っており、見ていてとても気持ちがいいです。シットスピンがやや見劣りしますが、ブレジナ選手に限らず、スピンの課題は練習を重ねることにより比較的短期間に克服できるはずです。今後の飛躍が楽しみ。
今大会は、オリンピックに続いて、ステップでレベル4が頻発しました。シーズン中はそうではなかったが、最後の最後でレベル4の構成とレベル3の構成で大きく差がついたことになります。また、今季ステップのGOE加点推薦基準が改正されたのですが、追加項目の中の3) 十分に明確で正確 4) 深いはっきりとしたエッジ(全てのターンの入りと出を含む)は軽視され、8) 音楽構造に要素が合っている、が、プラスGOEに与える影響がとても大きいように感じられます。このGOEのつき方には個人的には納得できない部分が大きいのですが、そういう傾向にある以上、それに合わせたステップ構成というのも必要なように感じられます。例えば小塚選手のブラケットやロッカーなどのターン後の重心移動・フリーレッグの処理などは見ていて惚れ惚れし、これに加点しないでどこに加点するんだよ、と思わないわけではないのですが、残念なことにそれが点数につながりづらいとなれば、何かしらの対策を考えなくてはならないのかもしれません。

現行の加点制度に思うこと

 バンクーバー五輪女子シングルはキム・ヨナ選手の圧勝に終わりました。プロトコルを見ていくと、キム選手の勝利は、“技の出来映え(GOE)”に大きく支えられたものであることが分かります。今日の日記では、そのGOE加点について私が思っていることを書いてみたいと思います。恐らく、これまでの日記と整合性のないものや、そもそも今日の日記の中にも、各大会の採点結果などと照らし合わせたとき、矛盾するものもあるかと思います。今後、フィギュアスケートを見続けて行く中で、考えが変わってくる部分もあるかもしれません。あくまで、現時点で私が思っていることということで、“こういう考え方の人もいるんだな”と、参考程度に読んでいただけたら幸いです。PCSについては、今日の日記の必要上、少しだけ触れていますが、私自身、スケートを見る目が未熟であったり、プログラムの内容を細かく比較分析しているわけでもなかったりといった理由で、なぜそのような数値になるのかが理解できない部分が多いです。
 現行の加点システムを理解する助けとなると思われる文書がこれです。
Program Components Overview(演技構成点概要)
 ここで注目していただきたいのは、10段階に分けられた“Mark”の中の5“Average(平均的な)”と6“Above Average(平均超の)”です、ここからISUの言うところの“Good”や“Weak”といった表現、そしてそれを元として導き出されるPCS(そしてGOE)は、『絶対的なものではなく、相対的なものである』、これをGOE加点に置き換えると、ISUの公式大会に出場する選手の演技の各要素を細分化し、その細分化された各項目がその平均よりも相当程度上回ったと判断されれば、“Good”となる(*1)ということなのだろうと思います。
 次に見ていただきたいものが、GOEの加減点基準です。(この加点基準は強制ではなく、あくまでISUが推薦(general recommendations)しているものであるということは、ご理解ください。)
ほとんど全ての加点項目で、“Good”が要求されていることが分かります。この“Good”にある項目を念頭に、参加した全選手の各要素と、キム選手の各要素を比較すると、ほとんど全ての要素が“Average”を超え、“Above Average”以上にあるといわざるを得ないと思うのです。特に他選手に大きく差をつけているジャンプを取ってみると、キム選手のように、高さ・幅・着氷後の流れ、更にはステップ・スケーティング動作からのエントリーといった加点項目を十分に備え、かつ、減点項目が一つもない選手というのは非常に少ないというのが私見です。例えば、コストナー選手はキム選手に勝るとも劣らないスピード・高さ・幅を備えた豪快なトウジャンプを跳びますが、ジャンプの準備動作が非常に長く、数名のジャッジが“Long preparation”による減点を取ったとしても仕方が無いと思えますし、素晴らしい高さを誇る浅田選手のトリプルアクセルは、着氷後の流れや、流れが止まったことによりセカンドジャンプを半ば強引につけているといった点で、思うように加点が伸びない、という結果となってしまうのも理解できるのです。NHKの解説者の方が、恐らく半分皮肉をこめて『キム・ヨナの得点は現行システムを最大限に“利用”した』という表現をしていましたが、まさにその通りで、高得点を出した、というよりむしろ出さざるを得なかった、という表現の方が近いのではないかとすら思えます。
 現在の積極加点の傾向ですが、個人的には多いに歓迎しています。以前、スピンにおいて、見苦しいポジションを取り入れてまで基礎点を稼ぎにくることの原因として、『GOEの加減点』<『レベルアップによる基礎点』であるとしたうえで、これは個人的には好ましくないように思うと書いたことがあります。ファンの方には申し訳ないんですが、例を挙げると、フラット選手のSPフライングキャメルスピン。最後のRFIのポジションは変形とチェンジエッジの2つのレベル要件を満たすお得なポジションなのですが、その姿勢と、特にそこからの出方が大変お粗末だと思います。加点がつかなかったことにより、実質的に他選手のシットスピンよりも低い評価に止まっていますが、私としては、もっと厳しい罰が与えられても良いように思います。また、例えばこの動画2:08伊藤みどり氏のダブルアクセルは、上の加点基準の1)から7)に当てはまり、恐らく加点込みでトリプルルッツの基礎点を越える得点を稼いだと想像されますが、個人的には、十分それに値する難易度と破壊力を持っていると思います。カウンターターンからこれだけのスピードのまま即座に踏み切り、両手を腰に当て、ゆっくりと回転しながら軽々と回転を終えて降りてくる。これと同じものをやれといっても出来る選手はいないでしょう。
 改善して欲しい部分もあります。まずは、高難度ジャンプのGOE係数。シングルとダブル、ダブルとトリプルには差を設けているのに、ダブルアクセル以上のジャンプの係数が全て1.0しかない、というのはおかしな話で、ある程度ジャンプの基礎点に連動させるべきだと思います。次に、コンビネーションジャンプの係数。これは、こちらの日記に書いていますが、ダウングレード判定と合わせた根本的な見直しがあっても良いのではないかと思います。最後に、極めて優れたものに対する評価です。ここに示された加点項目を鵜呑みにすると“Good”“Very Good”  “Superior”“Outstanding”の間に差が無いことになります。(*2)この日記に少し書いているのですが、(これは完全に私の好みの問題なのですけれども、)私は、平均的な高難度ジャンプよりも、難度は低くとも爆発的な大きさを備えたジャンプを見てみたいという思いが強く、そのためにも際立って質の良い要素にはある程度の基礎点の差を楽にひっくりかえせるだけのGOEをつけてもらいたい、という願いが強いです。やっぱりジャンプは高く遠くに飛んで勝負だと思うんです。新採点基準導入当時のジャンプの加点基準は、+3で“superior”という表現が用いられているように、主に『ジャンプ』そのもので評価する基準だったのですが、現在はステップからの入りや空中姿勢、着氷の工夫によってそれほどの大きさのジャンプでなくても加点が取れるようになってきてしまっているんですよね。どでかいジャンプ大好き人間の私にとっては、“good height and distance +1”“very good height and distance +2”“superior height and distance +3”なんてなってくれたら最高です^^
 なんともまとまらない日記になってしまいました。繰り返しになりますが、私は、キム選手に対するGOE評価については、概ね納得しています。全ての項目の質が一定以上にあり、加点は勿論なのですが、それと同じくらい『減点されない』というところは大きいと思います。キム選手の最大の強みはジャンプの加点であるわけですが、成功したときの加点が大きいということは、ステップアウト・オーバーターン・両足着氷といった確実にGOEがマイナスになるミスをしてしまえば相対的に大きな得点を失うことを意味します。キム選手はそのようなミスをほとんどしないんですよね。また、スピンを見ても同一姿勢を保ったまま加速が出来ていたり、足換えや出方についても上手で、徹底的な反復練習がもたらした機械のような正確さなのだと思います。今大会もほとんど全ての要素が“effortless throughout”だと感じました。演技構成点については、私自信の理解不足の部分が大きく、キム選手がトップの評価を得ることには納得ですが、特に上位にいるノーミスで演技を終えた選手との点差がこれほどまでについて良いものなのかの判断は出来ません。旧採点のセカンドマーク同様、実績点の意味合いが強く、国際大会での実績の少ない選手には、低い得点となる傾向はあるようにも感じています。
*1
ただ、全ての要素で明確に差がつき、“Good”や“ Weak”といった評価がでるわけでもないとも思っています。例えば、“good extension on landing”の“Good”については、伊藤みどり氏のトリプルアクセルの着氷のような、前後いっぱいに身体を伸ばした着氷姿勢でのランディングは少なく(このような着氷は、十分な流れが必要で、僅かな乱れが、転倒に直結するリスクが大きいことが理由にあると思います。個人的にロシェット選手のSPの2A、ゲデバニシビリ選手の3Lzの着氷姿勢は“Good”以上に該当すると思います)、この項目に関しては、“Average”前後に評価が集中しているのではないかと想像しています。
*2
差が無い、と書きましたが、これはあくまでこの基準に書かれていることで、実際のGOEの出方を見ますと、“Good”を明らかに上回る要素には、高い評価がでているように感じています。浅田選手のスパイラルの姿勢などは、GOE評価を大きく押し上げたものと思っています。

追記
バンクーバー五輪FSの感想は後日書く予定です

バンクーバー五輪女子SP

得点詳細 表一番右の「+」をクリック
フリー滑走順 フラット 安藤 キム 浅田 ロシェット ナガス の順

 直近の試合であったファイナルで3−3が決まらず、フリップが抜けるというミスの影響が全く感じられない素晴らしいジャンプでした。個人的に、全ての要素で減点するところが見当たらす、重箱の隅をつつきにつついて、フリップ前の準備動作が長い・シットスピンが若干遅い・ステップの最後、ツイズルの出でなんというか、微妙につまずいたように見えた、といったところですが、一方で、旧採点SPのファーストマークで6点満点が出るとしたらこういう演技なのかな、と思ったりもしました。とにかく、強い。フリーは大変難しいプログラムですが、ミスを最小限に抑えてまとめることができれば、彼女を負かすのは難しいかもしれません。

 練習を含めて、ここまで完全に回りきったトリプルアクセル(不足45度前後)を最後に見たのは2シーズン前まで遡らなければならないように思います。実は、結局まとまらなくてアップできなかったのですが、昨日今日とニュースで流れた練習映像では、不足がないと言い切れるジャンプが一つもなかったので、浅田選手の3Aと安藤選手の3−3は、ダウングレードの判定基準が甘いことを(願っていけないことはわかっていても)願わざるを得ない状況にあるかもしれない、という内容の日記まで書いていたのです。ところがどっこい、天野真氏も真っ青^^完璧に回転を満たしたジャンプでした。とりこぼしの多かったレイバックスピンも、どのポジションも要求より1回転以上多く回っており、シットのフォアインのポジションもしっかり3回転近くしていました。まさに準備万端。全ての要素において今季最高の状態にあり、『鐘』の究極の形が全世界に発信される予感がしています。そのフリー、ジャンプの基礎点ではキム選手を2点強上回ります。加点においてはキム選手に分がありますが、フリーをまとめてきた実績では浅田選手が上をいきます。

 3−3のセカンドでほぼ前向きに降りてしまいダウングレードのうえフリーレッグがタッチダウン。135度は不足していたフラット選手のルッツが認定されたので、安藤選手の3Lz−3Loは、二度映し出された6分間練習と同じものが出来れば確実に認定されていたはずです。本当に残念。フリップはダウングレードを取られたロステレコム杯と非常に良く似た状態での着氷。気になっていたキャメルスピンでの入りは、しっかりと軸がとれており、スパイラルのフォアインのポジションも不安がありませんでした。ジャンプ以外の要素の出来は、間違いなく今季最高でしたので、それだけに2つのジャンプミスが悔やまれます。3位ロシェット選手との差は、7点弱。ショートでの演技構成点のつき方、FPの密度を考えると、現時点での実質的な差は10点ほどあると考えられるかもしれません。フリーは、上位3選手のスコアを知ることの無い2番滑走。これは、願ってもない滑走順だと思います。回転不足の判定基準は、昨シーズンのスケートカナダ以来の甘さ。これがフリーでも変わらないことを信じて、ぜひとも最高難度のジャンプ構成に挑戦してもらいたいです。
 最高の舞台にふさわしい素晴らしい演技が続出しました。非常に甘い回転不足の判定基準で、最終組では浅田・安藤・フラット・ナガス各選手が相対的に有利になりそう。フリップで痛恨のミスのあった鈴木明子選手も、4位安藤選手までの差は僅か、また、PCSもGPSのような差をつけられてはおらず、大きく順位を伸ばすことは十分可能。

バンクーバー五輪男子FS

結果はこちら

 4回転を回避。この決断は、プルシェンコ選手の安定感を考えると一つのミスもできないことを意味しますが、その通り後半の3Aの回転がぎりぎりで着氷が僅かに乱れたことを除けば完璧な内容。ライサチェク選手のフリーをまとめ上げる力には、驚かされます。優勝、おめでとうございます。

 こちらの日記に書いたように、プルシェンコ選手の予定していた構成は、4回転のアドバンテージ(フリーで6.3点)を最大限に生かせる構成から4点ほど低いものになっており、3連続が抜けた段階で、4回転の貯金をほとんど使い果たしてしまいました。ジャンプで軸が傾いてしまうミスがいくつか見られましたので、GOEでの勝負となると、フリーでライサチェク選手が上になるのは避けられなかったように思います。

銅メダル、おめでとう。何とか片足で降りてくれ、と願っていた冒頭の4回転で転倒。思わず目を覆ったのですが、続く3Aコンボを美しく決めると、ループは軸が傾いたことを感じさせない滑らかな着氷を見せてくれました。後半は、両手を胸の前で合わせながら、ジャンプを降りるたびに強く握り締めていました。特に、トリプルルッツを挟んだ数十秒間は、その表情や見事な足捌きに魅入り、幸福な気分に浸ることが出来ました。それだけに、二度のコンビネーションスピン、とりわけ演技の最後、盛り上がりが最高潮に達したところで乱れがあったのは残念でした。おめでとうと書きましたが、個人的にはポテンシャルは高橋選手がNo.1だと思っていますので、やっぱり悔しいです。どうしても世界の頂点に立って欲しい。現役続行は嬉しいニュースです。

 4回転を回避。ショートでルッツにアテンションがついたこともあり、挑戦するものと確信していたので、驚きました。練習での確率が相当悪かったのだろうと思います。演技中に靴紐が切れてしまうアクシデントは、事前の備えが足りなかったことが原因のようで、後悔の残る大会となってしまったように思います。

 4回転は、ツーフットになってしまったものの着氷。後半のアクセルで転倒がありましたが、持っている力を存分に発揮した演技だったと思います。ジャンプ以外の要素の加点がやや抑えられているように感じます。技術的には申し分ないと思うのですが・・・ターンの正確さでは群を抜いていると感じるチャン選手のステップシークエンスの評価がいま一つのことなども考え合わせると、身体を大きく使うこと、音をしっかりととらえ分かりやすい形で表現すること、などにも研究の余地が残されているかもしれません。
 高橋・織田・ランビエール選手がこれまでほとんど受けたことのないルッツでの“!”マークをもらい、小塚選手の微妙なフリップにも“!”がつく厳しい判定基準となりました。日本の3選手が食らったこともあり、この傾向がこれからも続くのか、世界選手権で気になる点です。そんな中、フリップジャンプを完全なインサイドに修正してきたチャン選手は見事。ステップでレベル4が出る大会であれば、彼は確実にそれに該当してくることもあり、今回のオリンピックの採点基準が今後の大会に大きく影響するのであれば、これまで以上に怖い存在になりそうです。

バンクーバー五輪男子SP

こちらの表の一番右の+マークをクリックすると得点の詳細が表示されます。
第4グループまでは、有力候補が存分に持ち味を発揮し、さすがにどの選手も最高の状態に調整してきているな、と思ったのですが、ランク上位者が競う最終2グループでは、ジュベールアボット・ベルネル各選手が大きなジャンプミスを重ね、メダル争いから大きく後退。
最終組のフリー滑走順ライサチェク 織田 ランビエール 高橋 ウィアー プルシェンコの順。プルシェンコ選手が最終滑走。他選手はベストに近い演技をして、少しでもプルシェンコ選手にプレッシャーをかけたいところ。

 4−3コンビネーションとトリプルアクセルの安定感にはただただ脱帽。見ていて全く不安がありません。演技構成点ライサチェク・高橋・ランビエール選手らと比較すると、滑走順の影響だけとは思えない差がついている点、また、ライサチェク・高橋・チャン選手がステップでレベル4を獲得している点などから考えると、フリーではジャンプ以外の点数で4〜5点のビハインドからのスタートとなるという考えも成り立つと思います。場合によっては二度目の4回転への挑戦が見られるかもしれません。

 曲のアクセントに合わせたステップの振り付けやジャンプ後の間の取り方などが、とても上手いと感じました。サーキュラーステップのレベル4認定は、ターンで正確に踏んでいるようには見えないものがかなり多く、正直驚きました。最終グループの中で、4回転への挑戦の取捨が一番流動的なのが、恐らくライサチェク選手。滑走順は後であれば後であるほど良かったと思うのですが、一番滑走。彼は、3Aまでの構成であれば高確率でまとめることができ、ショートの貯金を考えるとその構成で表彰台に登れる可能性は高いでしょう。しかし、真ん中となると話は違ったものになってくるように思えます。彼の決断に注目しています。

 3−3の連続ジャンプでファーストの流れが出せず、強引にセカンド3Tをつけたのは、東京で行われた世界選手権と同じ。ちょっとヒヤッとしましたが、残りの要素は不安なし。これまでサーキュラーステップで何度か感じた暴走気味なところもなく、よい状態で臨めているように感じています。今季のこれまでの内容を思うと、フリーはひとつのジャンプも気を抜けない状況となるでしょうが、何とか4分半、気力・体力をもたせ、全ての能力を出し尽くして欲しいです。前回の日記で書きましたが、最大のライバルとなるプルシェンコ選手とのジャンプの基礎点の比較では高橋選手が上、プルシェンコ選手が4回転を二度入れる構成にしても五分です。演技構成点においては高橋選手に分があります。金メダルに最も近いのは高橋選手だと信じています。

 素晴らしい高さと流れのルッツコンボの加点が0.6。リアルタイムの得点詳細サイトには“e”“!”の表示がないので、織田選手のルッツにアテンションがついたと考えるのが自然に思えます。織田選手のルッツについては以前指摘したことがあったのですが、一番大切な舞台で取られてしまったのかもしれません。全く同じ構成であるライサチェク・高橋両選手との得点の差は、ステップと演技構成点でついたものです。構成点の遅れは本当につらいですが、フリーは、織田選手にぴったりと合った素晴らしいプログラムでの挑戦となります。4回転を降り、ノーミスに近い内容で、残るライバルたちにプレッシャーをかけてもらいたいです。(心の声:4回転は単独でお願いします。コンボにするなら、ジャンプの回数規定だけには、くれぐれも気をつけて)

 トリプルアクセルがツーフットとなるミスがありましたが、残りのジャンプは今季あまり見られなかった美しい流れを持ったものでした。フリップが0.2の減点となっていますので、こちらも多分アテンションがついたものと思われます。いや厳しい。上位にいるのは強敵ばかりですが、フリーで一つでも順位を上げてもらいたいです。
ショートプログラム、個人的には高橋・ランビエール・チャン選手の演技に心を打たれました。ジャンプ構成とショートでの得点差・演技構成点の出方を考えると、表彰台争いは最終組の6人にパトリック・チャン選手を加えた7人で争われることになりそう。

ヨーロッパ選手権(男子)

結果はこちらから
今大会は、Youtubeで見ただけということもあり、大会の感想というよりは有力選手の五輪の展望その他という感じです。

 4−3コンビネーションとトリプルアクセルの安定感が抜群。ショート・フリー共にファースト・マーク(技術点)において大きな割合を占めるこれらの大技を確実に成功させる強さが、彼に『皇帝』の称号を与えたのでしょう。ショートで僅差につけていたジュベール選手の得点が伸びず、プレッシャーが幾分軽減された状態での演技だったことは想像できますが、この安定感は五輪本番でも高い確率で発揮されるように思います。スコアも、4回転抜きの王者が誕生したここ2年の世界選手権の数字を軽々と上回り、他の選手たちに与える影響も大きなものがあるように思います。ただ、フリーで前半にジャンプを固めており、また、エッジに不安があるのか、フリップの変わりにダブルアクセルを入れているということもあり、ジャンプの基礎点が60.83(4T-3T-2Lo 3A 3A-2T 3Lo 3Lz / 3Lz-2T 3S 2A)とさほど高くはありません。(*1)
本番も今回と同様の構成であるならば、決して雲の上の存在というわけでは無いと思います・・・と言ってはみましたが、下の例に挙げた高橋選手の構成はトップクラスの多くの選手が採用する(採用している)構成で、それを最小限の失点で抑えてまとめきった選手がいなかったから、ここ2年、4回転無しの王者が誕生したともいえなくもないのですが。
 ともかく、今大会でプルシェンコ選手が余裕残しの構成で255点という数字を叩き出したことが、五輪で表彰台の中央を狙う選手たちに計り知れない圧力をかけたことは間違いありません。有力選手のほとんどが4回転に挑戦し、ミスをしたものから去ってゆくというサバイバルゲームの主役となるためにも、五輪でもその力を存分に発揮してもらいたいです。
*1
 4回転の1度入ったトリプル6種の構成例
 4T 3A-2T 3A / 3F-3T 3Lo 3Lz-2T-2Lo 3S 3Lz (基礎点64.68 今季高橋大輔選手)
 4T 3A-3T 3S / 3A 3Lz-3T-2Lo 3F-2T 3Lo 2A (基礎点65.00 今季織田信成選手)

 最大の課題であるトリプルアクセルですが、今大会では回避。プログラムの配置を見ると、ひょっとすると初めからダブルしか想定していないようにも感じられなくもありません。これにより、相対的に多くの基礎点を失うことになるのですが、その変わりに、4回転を合計3度入れることによって挽回を狙う構成となっています。ジャンプでの細かなミス、ステップでの転倒がありましたが、演技構成点ではプルシェンコ選手を抑えてトップの評価を獲得。滑りそのものの技術と、それを駆使した演技力がジャッジから絶大な評価を受けているのだろうと思います。構成点が常に高い値で安定しているという点では、ランビエール選手と高橋選手が双璧。ただ、その演技構成点をもってしても、3Aが無くては他の選手のミス待ちになってしまうように思います。

 ファイナル直前の怪我からの復帰戦。まずは、無事に競技を終えたことと、怪我の原因となったルッツジャンプを全てきれいに降りたことに安心しました。確率の高い4回転を持ちながらジュベール選手のスコアが伸びきらない(PBは240.85)原因の一つに、4回転ジャンプのアドバンテージ(*2)を最大限に生かしきる構成をこなしきれていないことがあると思います。一例として、ジュベール選手がフリーで4回転を3度成功させた06ロシア杯を挙げます。(基礎点は現在の基礎点に修正しています)
 4T-2T 4S 3A / 4T 3Lo-2T 3F 3Lz 3S (基礎点合計64.91)
 4回転を3度入れているにもかかわらず、*1で上げた高橋・織田両選手の4回転1回の構成とほとんど変わらない基礎点であることがわかります。その理由は、3Aを一度しか入れていない(後半ボーナス無視で3.7点のロス)・セカンド3Tが無い(同2.7点のロス)・3連続コンボが丸々抜けている(同2.8点のロス)、の3点です。*2で少し書きましたが、2回目以降の4回転の技術点でのアドバンテージは1回目と比較して小さく、このような小さなロスで簡単に吹き飛んでしまいます。ジュベール選手には大技を決めた後の気の抜けというか、詰めの甘さのようなものを感じることもあるのですが、最後の0.1点まで搾り出すといった執念のようなものが感じられる演技を五輪では期待したいです。
*2
新採点方式では、基礎点の存在によって4回転ジャンプ(トウループ)のアドバンテージの値を客観的に知ることができます。一般的な構成で比較すると、ショートプログラムでは4.3点(代替3F)、フリースケーティングでは4回転1回の構成で6.3点(代替2A)、2回の構成で10.1点(代替2A・3Lz)です。
 ショート 3F(4T)−3T 3Lz 3A
 フリー 3A−2T 3A 3Lz(2回目4T)−2T 3F−3T−2Lo 3Lz 3Lo 3S(4S) 2A(1回目4T)
フリーにおいて、1回目の4Tがダブルアクセルの代替となり、6.3点というアドバンテージを持つのに対し、2回目の4Tはトリプルルッツの代替となりますから点数的なアドバンテージは僅かに3.8点しかありません・・・トリプルジャンプが一つ抜けてしまえばチャラどころかマイナスになってしまう程度の数字です。新採点方式においては、トリプルジャンプ、コンビネーションの権利、ジャンプ以外の要素等、残された要素をまとめて初めて4回転ジャンプの真価が発揮されるということだと思います。逆にいえば、構成的なロスを無くし、全ての要素をまとめれば、4回転の持つアドバンテージはSP・FSそれぞれ1回ずつとしても合計10.6点あり、トリプルまでの選手には超えることが不可能な数字であるといえると思います。
 トマシュ・ベルネル選手の今季の不調は残念です。全ての要素のクオリティが高く、頂点に上っても驚きません。巻き返しに期待です。